視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から 第9回 視覚障害者情報提供施設(点字図書館)での視覚リハ

雑誌「視覚障害」2023年2月号表紙
雑誌視覚障害2023年2月号表紙

昨日節分、私も最近の流行に従って、恵方巻きを買ってきて、お酒を飲みながら美味しくいただきました。まだまだ世の中寒くて、外に出るのもつらいのですが、私の部屋の胡蝶蘭、早くも満開になり、毎日私を楽しませてくれています。
さて、雑誌「視覚障害」に、私がコーディネートさせていただいている「視覚リハ(ロービジョンケア)の現場からも、速いもので10回目を迎えました。今回は、情報提供施設で行われている視覚リハサービスについて、ライトハウスライブラリー(島根県)の庄司さんが原稿を寄せてくださっています。

 現場のお仕事で忙しい中、全国の情報提供施設(点字図書館)に調査を試みてくださり、全国の状況が分かる記事です。

白い花弁が際立っている胡蝶蘭。ちょうど今満開です。
窓辺の胡蝶蘭

この記事をきっかけに、情報提供施設で行われている視覚リハについて、みんなが感心を持って、より良い方向に発展したらと思いながら読ませていただきました。

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視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から2022
第9回 視覚障害者情報提供施設(点字図書館)での視覚リハ
ライトハウスライブラリー(島根県) 
視覚障害生活訓練等指導者  庄司 健(しょうじ たけし)


はじめに

 本稿では、視覚障害者関係施設の一つである「視覚障害者情報提供施設(点字図書館)」における視覚リハについて、普段「何となく感じてはいるけど実際どうなのだろう」という部分を、法律や各種調査結果を基にして確認し、その良さ・難しさについても考えます。私自身も、視覚障害者情報提供施設の中で視覚リハを担当するひとりですので、実感も交えつつお伝えできればと思います。

◎今回用いる主な用語・略称について
 視覚障害者情報提供施設は、法律では後述の通り「視聴覚障害者情報提供施設」と表記され、点字図書館とも呼ばれます。本稿ではこれらを「情報提供施設」、視覚リハビリテーションを「視覚リハ」、その視覚リハ関係の有資格者を「視覚リハ職」と表記します(一部「有資格者」と表記しますが同義です)。なお有資格者の定義は、後述の「視覚障害者の生活訓練施設の現状」調査対象と同一とします。

◎資料として用いる調査・アンケートについて
 本稿では三つの調査結果を用います。
(1)「日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会 実態調査プロジェクト」による、情報提供施設84施設を対象にした令和2年度の調査「日本の点字図書館37」。本稿では「日本の点字図書館」と表記します。
(2)日本ライトハウス養成部調査「視覚障害者の生活訓練施設の現状」の令和4年版。調査対象は「視覚障害生活訓練等指導者養成課程修了者(厚生労働省委託)、国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科卒業生と各種研修会修了生、海外養成機関での修了者」。本稿ではそのまま調査名で表記します。
(3)本稿執筆にあたり、(2)の「視覚障害者の生活訓練施設の現状」で情報提供施設となっている施設、及び在籍の視覚リハ職を対象に行った独自アンケートの結果。対象20施設中14施設、37人中19人の視覚リハ職が回答。施設単位での回収率は70%、視覚リハ職個人は51.4%ということで、特に個人の方は数値的な精度には欠けるかと思いますが、全体的な傾向を表すことはできると考え、今回結果を利用します。本稿では「独自アンケート」と表記します。

1.法律上での「情報提供施設での視覚リハ」
 初めに法律面に触れます。少々硬い話ではありますが、情報提供施設での視覚リハ実施の根拠となる部分です。
 「情報提供施設」は身体障害者福祉法第34条で位置付けられており、その条文には「視聴覚障害者情報提供施設は、無料又は低額な料金で、点字刊行物、視覚障害者用の録音物、聴覚障害者用の録画物その他各種情報を記録した物であつて専ら視聴覚障害者が利用するものを製作し、若しくはこれらを視聴覚障害者の利用に供し、又は点訳(文字を点字に訳すことをいう。)…(中略)…その他の厚生労働省令で定める便宜を供与する施設とする。」とあります。「全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)」の加盟施設・団体数は、2023年1月現在で100、うち情報提供施設は84です。全都道府県に最低1か所設置されていることは、視覚障害者福祉の分野における特徴の一つかと思います。設置・運営は、都道府県・市町村・社会福祉法人等様々です。
 その情報提供施設における視覚リハは、どう位置付けられているでしょうか。身体障害者福祉法第34条に出てくる「厚生労働省令」では「第34条に規定する厚生労働省令で定める便宜は、点訳又は手話通訳等を行う者の養成又は派遣、点字刊行物等の普及の促進、視聴覚障害者に対する情報機器の貸し出し、視聴覚障害者に関する相談等とする」とあるように、単なる視覚障害者の図書館としてだけでなく、視覚リハの一つとも言える「情報機器への対応」や、「相談対応機能」が謳われる一方、歩行訓練や ADLなど情報系以外の視覚リハについては触れられていません。人員基準も「施設長・司書・点字指導員・貸出閲覧員又は情報支援員・校正員又は音声訳指導員」となっており、直接的に視覚リハ職を示す人員は出てきません。

2.「情報提供施設での視覚リハ」の実施状況
 「日本の点字図書館」による情報提供施設全体での内容別実施率を見ると、デイジー機器関係77.4%・点字訓練60.2%・パソコン講習55.0%・スマホ操作説明講習63.9%・ICT操作説明講習67.5%・歩行訓練33.7%です。これに、「独自アンケート」で調査した、視覚リハ職による内容別実施割合を重ねると、視覚リハ職のみが実施する割合が高い内容ほど、施設での実施率が低いという傾向が示唆されました(図1)。
(図表説明 図1)「情報提供施設での各視覚リハ実施率と視覚リハ職のみでの実施割合」の図。棒グラフで表されている「情報提供施設での実施率」は次のとおり。デイジー機器関係77.4%・点字訓練60.2%・パソコン講習55.0%・スマホ操作説明講習63.9%・ICT操作説明講習67.5%・歩行訓練33.7%。折れ線グラフで表されている「視覚リハ職のみでの実施割合」は次のとおり(数字は概数)。デイジー機器関係22%・点字訓練50%・パソコン講習28%・スマホ操作説明講習28%・ICT操作説明講習28%・歩行訓練94%。
 ※ 独自アンケートでは「読書関係の機器等」と「それ以外の機器等」で質問しましたので「パソコン・スマホ・ICT」に「それ以外の機器等」を対応させています。

3.情報提供施設での視覚リハ人材確保の財源
 このように「情報提供施設での視覚リハ」は、特に情報系以外の内容について、施設の機能として明記はなく、及び人員基準に視覚リハ職は出てきません。そのような中にあって、3割強の施設が歩行訓練を実施し、その9割以上を視覚リハ職が実施していました。独自アンケートでは、この視覚リハ職の雇用財源を質問しました。
 結果ですが、指定管理者制度における「指定管理料」と「それ以外」に分けます。
 「指定管理料」を財源としているのは6施設(42.9%)で、そのうち5施設では、情報提供業務とは別に視覚リハ事業のための人件費を確保されていましたが、1施設に関しては事業費のみで人件費は含まれていないとのことでした。
 「それ以外」の8施設(57.1%)のうち7施設は「行政からの事業委託費(以下、事業委託費)を財源としていましたが、「事業委託費のみ」は1施設で、残り6施設は、併せて各種助成金や自己財源などを利用していました。残り1施設は「自己財源のみ」でした。
 今回の調査では明確にできませんでしたが、指定管理の場合より、行政からの委託事業や助成事業の場合の方が、人件費が含まれていない傾向が強いように見えます。

4.情報提供施設での視覚リハ職の働き方
 次に、独自アンケートによる視覚リハ職個人への質問結果からです(施設名・氏名は無記名)。
 「視覚リハ以外の担当業務」について、視覚リハや相談支援のみという方は3人(15.8%)、兼務ありは16人(84.2%)でした。兼務内容(複数回答可)の回答数は、ボランティア養成8(42.1%)、その他(施設管理業務・事務等)8(42.1%)、製作5(26.3%)、貸出2(10.5%)でした。回答数の構成比を見るために回答数の割合の合計(136.8%)を基に算出したのが図2のグラフです。
(図表説明 図2)「視覚リハ・相談支援以外の担当業務」の円グラフ。ボランティア養成30.8%、製作19.2%、貸出7.7%、その他30.8%、なし11.5%。
 「情報提供業務と視覚リハ・相談業務の比率」については、情報提供業務の比率が高い方が4人(25.0%)、同比率の方が3人(18.8%)、視覚リハ・相談支援業務の比率が高い方が9人(56.3%)でした(図3)。
(図表説明 図3)「視覚リハ・相談支援業務の比率」の円グラフ。3割6.3%、4割18.8%、5割18.8%、6割6.3%、7割6.3%、8割18.8%、9割25.0%。
 併せて「理想の比率」を質問しましたが、現状と同じ方が7人(46.7%)、視覚リハ・相談支援の比率を高めたい方が6人(40.0%)、情報提供業務の比率を高めたい方が2人(13.3%)でした。
 「情報提供施設の業務に視覚リハ職が関わる意義」を質問した項目では、肯定的な回答が15人(78.9%)、否定的な回答が1人(5.3%)、どちらとも言えないが3人(15.8%)でした(図4)。
(図表説明 図4)「情報提供施設業務に視覚リハ職が関わる意義」の円グラフ。感じる52.6%、やや感じる26.3%、どちらとも言えない15.8%、あまり感じない5.3%。
 「情報提供施設において視覚リハ・相談支援業務を実施する意義」については、肯定的な回答が17人(94.4%)、否定的な回答が0人、どちらとも言えないが1人(5.6%)でした(図5)。
(図表説明 図5)「情報提供施設で視覚リハをする意義」の円グラフ。感じる83.3%、やや感じる11.1%、どちらとも言えない5.6%。

5.情報提供施設で視覚リハを行う「良さ」と「難しさ」
 ここまでの結果を踏まえて、情報提供施設で視覚リハを行う「良さ」と「難しさ」を挙げてみます。なお各項での括弧内の数は、独自アンケートの自由記述欄で、その内容に言及している方の人数です。
――良さ――
①地域格差を埋める一助に:各都道府県に最低一つはある情報提供施設で実施することで、視覚リハの地域間格差を縮められる可能性があります。(3人)
②地域に近いこと:都道府県や市町村単位の組織と連携しやすいことは大きなメリットです。私も地元の地域包括支援センターやケアマネなど介護分野との連携を始めていますが、互いが対象者の住む地域の中で活動しているというのは、顔が見える関係を築きやすく、円滑なコミュニケーションを生み出しやすいと実感しています。
③情報提供業務との相補的関係:今回の独自アンケート結果を見ると、情報提供施設在籍の視覚リハ職の多くが、「情報提供施設業務に視覚リハ職が関わる意義」、「情報提供施設で視覚リハをする意義」を感じていました(4節及び図4・5参照)。「情報」という共通のキーワードや、情報提供と視覚リハという二つの入口が互いを補う関係となり有機的に結び付けば、補うだけでなくより相乗的な効果も生まれると考えます。(15人)
――難しさ――
①視覚リハの位置付けと予算の確保:情報提供施設の機能(人員基準)としても、地域生活支援事業における必須事業としても位置付けられていない中、視覚リハ(特に情報系以外)実現のために、事業更新の都度、必要性を訴えて予算を確保しなければならないのが現状です。地域間格差を指摘する意見がありましたが(2人)、原因の一端はそこにもありそうです。視覚リハのニーズが高まる中、人員や予算の増強を求めたいところですが、現状維持すら難しいのではと危惧しています。予算確保の努力だけでなく、根本的には「基本的な社会資源として位置付けられる」ための努力が必要と言えそうです。
②情報提供施設業務との兼務:「読書バリアフリー法」の成立などもあり、情報提供施設での業務量は増している状況です。人件費確保の難しさ等のため、情報提供業務と兼務状態である視覚リハ職からは、「負担増から視覚リハに時間を回せない」、「それぞれが中途半端になっている」、「視覚リハ専任スタッフ配置が必要」という声がありました。(7人)
③対象エリア:全都道府県にある情報提供施設ですが、地方においては1施設で県内の半分~全域を対象としているところもあります。「地域に近いこと」を良さとして挙げましたが、対象エリアの広さから、遠隔地への視覚リハの提供に困難を抱える施設もあります。

終わりに
 以前より「情報提供施設での視覚リハは多様だ」という印象を持っていましたが、本稿の執筆を通して、情報提供施設が「位置付けが明確でない中、状況の異なる各地域で、何とか視覚リハに取り組まれている」ことがその理由の一つだと分かりました。情報提供施設での視覚リハには、地域の中で課題を解決していける可能性があります。困難な状況の中、その可能性を現実のものとし、持続かつ広げていける方法は何なのか…と模索する日々です。

【謝辞】短い期間でアンケートにご協力いただきました施設・視覚リハ職の皆様に、心よりお礼申し上げます。