視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から 第6回 つなぐ! つながる! 主体的視覚リハビリテーション     ~当事者活動と視覚リハの連携から生まれる力~

雑誌「視覚障害」2022年11月号表紙
雑誌「視覚障害」2022年11月号表紙

 あっという間に1ヶ月が経ち、秋晴れの日が続くようになってきました。鉢植えを育てるのが好きなくせに、旨く世話が出来ず、すぐ枯らしてしまう私ですが、3年前に買ったシクラメンは、奇跡的に3回目の休眠から無事復活、立派な葉が出てきました。これで、来年の春の開花が楽しみになりました。

 さて、私がコーディネートさせていただいている雑誌「月刊視覚障害」のシリーズ「視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から」は、連載6回目を迎えて、当事者の立場を生かして「寄り添う」視覚リハを実践しておられる石川さんに、その活動ぶりを執筆していただきました。いつものように、執筆者と月刊視覚障害の編集部の許可を得て、私のブログに転載させていただきます。

3年目の休眠から復活、1ヶ月半経って立派に葉が出そろったシクラメン
11月5日のシクラメンの姿

視覚障害2022年11月号-石川.pdfをダウンロード

視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から2022
第6回 つなぐ! つながる! 主体的視覚リハビリテーション
    ~当事者活動と視覚リハの連携から生まれる力~
京都ライトハウス鳥居寮  石川 佳子

1.はじめに

 私は2014年の4月より、京都ライトハウス鳥居寮の生活支援員として、週5日のパート勤務をしています。鳥居寮は、主に中途で視覚障害になられた方々に通所、入所、訪問などで視覚リハビリテーションを提供する障害者支援施設です。私の担当業務は点字、パソコン訓練、文章・教養・アビリンピック(全国障害者技能競技大会)対策講座、外部講師を招いての講座運営、利用者さんの支援計画作成、同法人内の他部署との連携による点字普及イベントの運営などです。
 先天弱視の私は32歳の時、わが子を膝にのせて絵本を読めるようになりたくて鳥居寮で訓練を受けました。障害者手帳を取得して20年余り、視力は0.1から0.01に、視野は中心からその少し外側のわずかな部分のみになっていましたので、さまざまな見え方を体感できたことはロービジョンケアのヒントになっています。また、障害の有無に関係なく、人生の過程で子育て、介護、仕事と家事のライフバランスなど、私もその困難に直面します。
 その際、見えない・見えにくいことで本当に困ることは何なのかを考えます。また、多くの見えない・見えにくい人たちとの出会いから、いくつかの当事者活動を立ち上げました。これが必要ではないかと掲げた課題をオフの当事者活動で、仕事である視覚リハで、それぞれを連携させて実りある力につなぐ、そんな私の取り組みについてお話します。

2.「知ってさえいれば」をなくしたい
 私は先天弱視でしたが31歳まで何の情報もなく、支援にもつながれませんでした。自分が障害者手帳に該当するほどの病気であることすら知りませんでした。3歳の時点で「視野が狭い」、「小さいものが見えない」、「暗いと見えない」、「色がわかりにくい」、「いつか失明するかもしれない」という診断を受けていました。網膜色素変性症という疾患名を告げられたのは17歳、説明は「治療法はない」ということだけでした。
 31歳ではじめて京都ライトハウスを訪れた時、私が小学校に入学する時点ですでに拡大文字の辞書や教科書があったことを知りました。同世代で私と同じように生まれつき見えにくい人が、適切な配慮を受け高い学問を修めていることを知った時、「私にもやりたい勉強があったのに」と、悔しい気持ちになりました。「マークシートが正確にチェックできない」、「辞書がまともに使えない」、「読むのに時間がかかる」、「授業が指示代名詞だらけで理解できない」、そんな時間を過ごしてきた自分との情報格差に愕然としました。「知らなかったがために夢が描けなかった」、「知っていたら違った人生だった」とさえ感じました。
 でも、今となれば虫メガネ一つと根性だけで必死だった頃の自分も愛しいです。それは、見える人の中で生きるための工夫や、折り合いのつけ方を学ぶ時間であったのかもしれません。何も知らずにいたことと、知ってひろがる可能性、その両方を体感したことから「知ってさえいればをなくしたい」という思いが生まれ、プライベートでの当事者活動と、職場である視覚リハでの取り組みにつながっていきました。

3. 人と情報につながることからはじまる一歩がある 医療から福祉へ早期連携を
   ~『メルマガ色鉛筆』・ 書籍『見えない地球の暮らし方』~
 私は31歳の時、眼科できちんと疾患に関する説明を受け、ロービジョンケアにたどり着くことができ、人と情報につながることができました。そこで、まだ見ぬ仲間に「あなたはひとりぼっちじゃない」と声をかけたいと思いました。「人は見えにくさを感じたら眼科には行くから、そこでさっと渡せる情報がいい」、「メルマガという軽さから口コミでひろげられるかもしれない」と考え、医療現場から早期にリアルなヒント集を届けるために、2013年、京都府視覚障害者協会より『メルマガ色鉛筆』を創刊し、眼科や施設にチラシを配布しました。
 『メルマガ色鉛筆』は視覚障害を持った120人のライターが、それぞれの暮らしの一コマをあるがままにレポートしています。月3回の発行で、歩行、制度、工夫、恋愛、結婚、子育て、家事、就学、就労、趣味、スポーツ、共生、家族、心の風景、川柳などのレポートを無料で全国にお届けしています。『メルマガ色鉛筆』はさまざまなネットワークや機関紙、教育相談のニュースレターなどに転載されています。「色鉛筆をヒントにあきらめていた障害年金受給につながった」、「便利グッズに出会えた」、「急に見えなくなったばかりの人に転送した」など、当事者の体験がまだ見ぬ誰かの小さなヒントとして活用されています。
 また、色鉛筆から生まれた書籍『見えない地球の暮らし方』は、福祉やITの外側にいる方々にも情報を届けるために作成しました。全国から約300人の方に活動協力金を賜り、3000部を制作し、医療、福祉、教育などさまざまな場面で配布していただきました。電子書籍、テキストデータ、ホームページ掲載、デイジー、点字と幅広い読書スタイルに対応しました。現在、クイックロービジョンケアをテーマに第2巻発行の準備中です。
 オフでの活動であるメルマガ・書籍は仕事である視覚リハで大活躍です。当事者が運営する京都府視覚障害者協会のホームページはレイアウトがシンプルなので、ネット検索の練習に活用しています。継続的な情報入手手段の一つとして『メルマガ色鉛筆』の読者登録を提案したり、書籍『見えない地球の暮らし方』にて、見え方・見えにくさ体験や多様な読書スタイル体験につなげています。

4.「働く」をテーマにした取り組み
 鳥居寮は職業訓練校ではありませんが、就活対策や働きながらの就労スキル獲得を目的に利用される方も増えています。就活準備のためのスキル獲得として、履歴書や職務経歴書の作成、面接対策、電話応対でのメモ実践、正確で速いタイピングスキル獲得のための訓練など、働くために必要な最低限のスキルが何かを考慮して、訓練課題を提供しています。アビリンピック対策講座や公的機関との連携でのビジネスセミナーも実施しています。
 オフの当事者活動としては、2001年に発足した視覚障害者ネットワーク「きららの会」、2012年より毎年4回開催している「仕事サロン」、2017年に発足した「視覚障害者就労相談人材バンク」に携わっています。また、書籍『あまねく届け! 光』(視覚障害者就労相談人材バンク有志著、読書日和発行)の編集を担当しました。働く仲間の生の声から具体的に困ることが何かを知ることができます。
 職場内で活用するオリジナルの表を訓練の中でご本人と相談し、作成することもあります。職場で実践されている工夫を拝聴し、演習テキスト作成の参考にしています。また、鳥居寮での就労ニーズへの取り組みを動画発信し、求職中・在職中の方へ「まずは相談」を呼びかけています。視覚障害就労のチーム支援の実現を目指して、他機関との連携を深める狙いもあります。
 一方、利用者さんに仕事サロンを案内し、社会人の先輩と交流することも提案しています。特に中途障害で新卒就活という方にとっては、どんなスキルが必要なのかイメージすることが大切です。仲間との出会いは訓練のより具体的な課題を考える機会にもなります。仕事サロンスタッフで支援者でもある私が、サロンに同席できることで初対面での配慮も可能です。一人で二つの立場、オンオフ共存の強みととらえています。

5. 仲間との交流から生まれた自分ごとの取り組み 
  ~カラーコーディネート・メイク・同世代交流~
 リハビリテーションは相談に始まり相談に終わり、「訓練後の連携=人と情報につながること」が大切だと私は考えています。そのためには、自分自身の社会資源の引き出しを充実させる必要性を感じ、勤務時間外にはアンテナを立てる時間を持つようにしています。支援者としてではなく仲間の一人として、私が見えない・見えにくい人生模様にふれることで気づくことがあります。
 特に、若い世代のネットワーク「きららの会」での活動の中で、同世代ならではや同じテーマならではのいろんな講座が生まれました。見えなくても色を楽しむカラーコーディネート、鏡がなくても大丈夫なメイク、スマホやマッサージ、お出かけ、子育て会など、同世代の思いを分かち合う交流です。当事者活動の中で立ち上げたり、アドバイザーとして企業と連携したり、活動の中で生まれたセミナーを、外部講師を招いての講座として視覚リハに導入しています。フランクな仲間との交流で、プライベートと仕事両方のエネルギーチャージです。

6. 視覚リハ 心とスキルの 両輪で 
  ~文章講座の試み~
 QOLアップには心とスキルの両輪が必要との思いから、通年、週1回の文章講座に取り組んでいます。「言葉による質問力・説明力を向上させることでコミュニケーション力アップを目指す」、「文章作成を通して心と対話することで自己受容の一助となる機会を獲得する」、この二つを柱に支援しています。川柳や大喜利、物語、体験談など、訓練から生まれた作品は点字やパソコンの訓練素材になることもあります。「OBさんの文章なんですよ」とお声かけして読み進めると、「あるある」の共感のひとときが生まれます。
 また、訓練で作成された文章が『メルマガ色鉛筆』に寄稿され、読者から感想コメントが届くことがあります。自分の思いや経験が遠くの誰かの心に響き、文章を通してつながる体験が生まれています。情報を求める側から発信する自分へ、思いを共有することはセルフメンタルケアにもなるようです。視覚リハから全国へ当事者のリアルを届ける、まさに当事者活動と視覚リハの連携「心とスキルの両輪」の実践です。

7.支える人に出会って元気アップ
 医療・福祉・教育現場の方、研究者の方、ボランティアさんなど、私たちの周りにはいろんな人の情熱があります。でも、その情熱の声にふれる機会は案外少ないものです。教養訓練の中では制度やサービス、工夫などをお伝えするだけでなく、なかなか直接出会うことのない企業や研究者の方にご講演いただいています。自分たちの知らないところで、「人生をかけて見えない・見えにくい人の暮らしを支えたいという人がいる」、「その人と出会うことはシンプルにうれしい」、「元気のもとになる」、そんな体験を私は幾度も重ねてきました。アプリ開発、芸術鑑賞サポート、アロマ、カウンセリング、海外の福祉など、それぞれの専門家の皆様からの講演はいつもサロン形式で実施し、双方向で考える時間になっています。支える人にとっても、支えられる私たちにとっても刺激的で熱い時間です。

8.主体的リハビリテーション 伴走から協奏へ
 訓練終了後も、主体的につながりリハを持続可能にする活動が生まれています。文章講座修了者の会「あおいとり」では、季節ごとに文章テーマを募集し、メーリングリストを活用して文章を投稿しながらつながっておられます。「あおいとり」で提案された文章課題に訓練中の皆様も挑戦され、現役さんとOBさんが感想コメントをやりとりされています。訓練中に現役さんとOBさんが課題を共有すること、それは文章を通してつながる居場所づくりへのサポート、つまり私の役割は伴走です。文章を通して持続可能な交流へ、文章から始まる主体的リハはいつしか協奏へとつながっています。
 また、見えない・見えにくい人のための外出支援ナビ「天使の杖でおいでやす」のホームページを、訓練 OBさんが運営されています。小説の舞台をめぐるレポートを掲載するなど、訓練で獲得したスキルを存分に発揮された活動です。文章講座の課題として言葉の道案内やおすすめスポット紹介に取り組み、天使の杖のお出かけレポート集のコーナーに寄稿しています。
 鳥居寮修了者の会「フェニックス会」は発足32年となりました。OBさんとボランティアさんで組織され、訓練中の皆さんとの体験交流会で先輩とのつながりの場を重ねておられます。訓練中から伴走し、活動そのものには協奏する、さまざまな活動とともに手を携え生まれるハーモニーを楽しんでいます。

9.視覚リハにおけるリクリエーションの役割
 視覚障害リハビリテーション研究発表大会に、私は第23回から参加し、第24回から当事者活動、または職場での取り組み、いずれかの発表をしてきました。2022年度よりは、視覚障害リハビリテーション協会余暇活動分科会の世話人を担当し、第30回視覚リハ大会では、リハビリテーションとリクリエーションについて考えるワークショップを実施しました。多職種が参加する大会で集う仲間とともに汗をかき活動することで、専門家同士でありながら気軽に対話できる仲間が増えます。時に、日常の取り組みの中では挑戦できないことを出し合って課題を提起したり、解決法をともに考えたりとワイワイやっています。
 「レクとリハはなかよし」という仮説のもとに、今年度は、「ITと点字」、「言葉で伝える」、「視覚リハのスキル」をミックスしながら、オンオフともにウクレレ演奏のサポートをしています。「好きなことから自己実現」「やり、たいをできるに」、「リクリエーションとリハビリテーションについて」、「レクが与えるリハの効果」、「リハにおけるレクの役割」など、これからも多面的にレクリハについて探求していきます。
 石川的 ADLは「当たり前にできる life」。当事者活動と視覚リハの連携でどんな化学反応が起きるか、想定外も楽しみながらの挑戦です。

【参考情報】
京都ライトハウス鳥居寮 就労ニーズへの取り組み動画 
https://www.kyoto-lighthouse.or.jp/news/news-8763/
京都ライトハウス 点字とともに点字となかよし  
https://www.youtube.com/watch?v=l3jEHLfjRa4
京都ライトハウス 文集『点字と私』 
https://www.kyoto-lighthouse.or.jp/column/column-6505/

公益社団法人京都府視覚障害者協会『メルマガ色鉛筆』 
書籍『見えない地球の暮らし方』のページ 
http://kyosikyo.sakura.ne.jp/contents/read/id/33
仕事サロンのページ 
http://kyosikyo.sakura.ne.jp/contents/read/id/112
就労相談人材バンク・書籍『あまねく届け! 光』 
https://shurojinzaibank.com/
視覚障害者ネットワーク「きららの会」 
http://kilala.ciao.jp/ 

(写真説)
『見えない地球の暮らし方』本文中の文字の見え方体験ページの写真。10.5ポイントから48ポイントまで、12種類の文字の大きさの川柳が掲載されている。例えば48ポイントの川柳は「つえさばき かっこよく決め ごっつんこ」。左のページは白地に墨字、右ページは黒地に白抜き文字。