視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から2022 第4回 就労継続支援B型事業と生活訓練事業での視覚リハの取り組みと課題~地方都市における視覚リハの取り組み~

雑誌「視覚障害2022年9月号表紙」
雑誌「視覚障害2022年9月号」表紙

 9月の声を聞くようになって、朝夕は少し過ごしやすくなり、夜ベランダに出ると、秋になく虫の声が聞こえるようになってきました。けれども、今日は、朝から猛暑、広報車が「水分の補給とエアコンの使用で熱中症の予防をしてください」と言いながら町を流していました。
 さて、雑誌「視覚障害」に私がコーディネートさせていただいているシリーズ「視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から」も4回目を迎えて、浜松のウイズ蜆塚の施設長古橋さんに依頼をして、「就労継続支援B型事業」を広く活用して、生活訓練事業も拡張し、地域の実情に即した視覚リハシステムの構築を模索している様子を書いていただきました。
 このユニークな試みを多くの方に知っていただきたくて、執筆者古橋さんと月刊視覚障害編集室の許可を得て、私のブログでも公開させていただきます。公開は、PDFデータと、テキスト形式で行います。

視覚障害-2022年9月号-古橋.pdfをダウンロード

視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から2022
第4回 就労継続支援B型事業と生活訓練事業での視覚リハの取り組みと課題
    ~地方都市における視覚リハの取り組み~
NPO法人六星 ウイズ蜆塚施設長
古橋 友則

はじめに
 COVID-19による生活様式の変化は、テレワークをはじめとした世の中の働き方にも多様性を生み、一層のデジタル化が進んでいます。一方、障害のある方を取り巻くデジタル環境はどうでしょうか? とりわけ視覚障害者が、世の中のデジタル化による恩恵を十分に受けているかといえば、まだまだ課題は多くあると思います。
 総務省のウェブサイト(政策「高齢者・障害者のICT利活用支援」)では、「高齢者や障害者がICT機器・サービスを活用し、デジタル活用の恩恵を受け、活き活きとより豊かな生活を送ることができるようにするため、高齢者等が、身近な場所で身近な人からICTを学べる環境づくりを推進する事業に取り組んでいる」と言っています。もちろん、その中には視覚障害者も含まれています。「身近な場所で身近な人からICTを学べる環境づくり」はまさに理想的な形であり、そこを求めていくことに疑いはありませんが、情報は一方通行では成り立ちません。発信する側の手段や情報量は増えても、それを受け取る側の知識、技術が伴っていなければ、せっかくの有益な情報も届くことはありません。
 私の働いている浜松市は人口80万人の政令指定都市ですが、中山間地域も多く、都市部のような福祉サービスも社会資源も充実しているとは言えません。そのような地方都市においても、視覚に障害を負った方が、自らの居場所を確保し、必要な情報を得るための知識技術を身につけることができるために、就労継続支援B型(以下、就B)事業と生活訓練事業の多機能事業の取り組みが、一つのヒントになり得ると思います。
 
1. 設立当初からの思い
 障害者自立支援法が施行される10年前、平成8(1996)年4月に、ウイズは視覚障害者中心の小規模授産所として、静岡県浜松市の郊外で開所しました。
 当時はまだ措置制度の時代であり、更生施設や授産施設等の第一種社会福祉事業の運営は、地方自治体か社会福祉法人に限られていましたので、法人格のないウイズは無認可施設といわれる小規模授産所として、市から年間数百万円の補助金を受け、職員4名、利用者6名でスタートしました。
 当時全国には同様の小規模授産所が5,000か所以上ありましたが、視覚障害者を対象にした小規模授産所はなく、開所当時は「視覚障害者が働けるのか」といった厳しい声もあったそうです。私は開所4年目の1999年に入職しましたが、その時にはすでに浜松市の広報誌や名刺、トランプ等への点字印刷、白杖製作等に取り組み、視覚障害者が使う物を視覚障害者自身が製作することで、県内の小規模授産所でもトップクラスの工賃を稼ぐまでに至り、開所当初の周囲の不安は払拭されていきました。
 また、希望する方には白杖歩行の練習をして自力で通所することを通して、「視覚障害者が街に出れば街が変わる」を合言葉に、利用者自らが社会を変える気概を持って通所していました。当時、JRと私鉄の電車を乗り継ぎ、1時間半かけて通所していた中途視覚障害の男性が、「白杖を持って駅を歩き始めた時は周囲の“目”が気になって辛かったが、通い続けているうちに同じ電車に乗った方が声をかけてくれたり、いつもと違うルートを歩いていると声をかけてくれる方がいて、自分は見られているのではなくて、見守られているんだと気づいた」とおっしゃっていたのを、今でも鮮明に覚えています。
 ウイズのような小さな作業所が地域にあることで、視覚障害のある方だけでなく、社会の考えや見方も変えることができる、これは今もウイズにとって大事な視点となっています。 

2. ウイズにおける就B事業の目的と役割
 平成18年に障害者自立支援法が施行され、小規模授産所だったウイズも、平成20年に就B事業所として法定福祉サービス事業所となりました。そのころには利用者も20名を超え、盲学校卒業の20歳代から、中途で視覚障害者になった70歳代の方まで幅広く在籍し、また、知的や精神、肢体との重複障害の方も増えていました。
 現在も視覚障害をベースに様々な重複障害のある方が在籍していますが、とりわけ、当時は高齢の中途障害の方たちから「自分たちの居場所が欲しい」という声が高まり、平成20年に第2ウイズとして「ウイズ蜆塚」が開所され、それに伴い、もともとのウイズも「ウイズ半田」と名称変更しました。以来、二つの就B事業所を50名以上の方が利用されていますが、主にウイズ蜆塚では、65歳以上の介護保険対象の中途視覚障害者も増え、単に働く場としてだけでなく、作業を通して障害に対する受容や共感を利用者同士が行うピアサポートの場として、また、様々な福祉機器や制度を知り、情報を得る場所としても役割を担ってきました。
 一方、訪問による歩行訓練等は訓練回数に限度を設けている自治体も多く、せっかく訓練によって前向きになっても、訓練終了後にまた在宅での生活に戻ってしまう場合もあるようですが、ウイズでは訪問訓練をきっかけに利用を始める方も多くおられます。介護保険にはない障害分野独自のサービスであり、福祉的就労の場であるため、利用期間や年齢、障害の程度による制限もなく、障害者手帳と作業をする意思さえあれば誰でも利用できる利点が、この就B事業にはあります。
 作業を通して聴覚や触覚を使った物の確認方法を知ったり、買い物や散歩のレクリエーションを通して手引き歩行を学ぶことができたり、最近ではプレクストークの体験やスマートフォンの使い方を職員からだけでなく、利用者同士が情報交換し、お互いに伝え合う場が見られるようになり、ウイズが単に就労支援の場だけではなく、生活力を身につけ、社会参加するきっかけを作る視覚リハの現場であることを実感しています。
 
3. 全国の視覚障害者を対象にした就B事業所
 ウイズと同様に、全国には視覚障害者を対象にした就B事業所が存在します。視覚障害者のみに特化した事業所では、作業内容も支援内容も視覚障害者へ配慮されたものが多く、また視覚障害者同士のコミュニケーションを大事にされているところが多いようです。
 一方で、視覚障害者だけでなく、知的や精神等、他の障害のある方とともに活動することで、それぞれの障害特性を生かしたり、補い合うことで独自の製品づくりや、取り組みをしている事業所もあります。
 東京都新宿区にある日本視覚障害者職能開発センターの「東京ワークショップ」は、1980年4月に開所した日本で最初の身体障害者の通所型授産施設で、パソコンを使い、録音された音声を文字化する仕事をしています。会議に出向いての収録から、文字起こし、校正、納品まで一貫して対応することで、高度なスキルとそれにより安定した工賃の支払いを確保しているのが特徴です。
 静岡市にある「視覚サポートなごみ」では、プラモデル部品の袋詰め等の軽作業のほか、視覚障害者向けの講習会や機器体験会の実施、冊子『視覚障害者のための便利帳』を作成するなど、従来の就労支援施設の枠を超えて、視覚障害者をサポートするための取り組みを積極的に行っています。
 また、埼玉県上尾市にある「領家グリーンゲイブルズ」では、視覚障害と他の障害を併せ持った重複障害の方も多く在籍し、点字名刺の製作や農作業のほか、コーヒーの焙煎など視覚障害者の特性を生かした、ほかにはない新たな取り組みを、利用者の「やれること、やりたいこと」を基に話し合って決めているのが特徴です。
 その他、大阪では今夏、パソコン技術の習得と、パソコンを用いた音楽制作を仕事に結びつけるという大変興味深い試みを始める、「オトラボ」という就B事業所がオープンしました。
 このように、今では視覚障害の特性をよく把握し、各々の個性を生かした取り組みが全国各地で広がりつつあり、就B事業を通した新たな視覚リハの場になっています。
 
4. 視覚障害者の就B事業の課題
 今では一般就労だけでなく、視覚障害者の働く場の一つの選択肢として、この就B事業も大きな役割を果たしていますが、いい面ばかりではなく、制度や地域による課題も見えてきています。
 すでに述べている通り、この就B事業は介護保険にない障害福祉サービスのため、年齢に関係なく利用できますが、自治体によっては障害特性を理解せず、一律に介護保険のサービスを優先しようとするところがまだあるようです。
 また、地域によっては視覚障害者中心の事業所がなく、他の障害の方が中心の事業所を利用する視覚障害者も多くおられます。その場合、事業所の定員に対し、視覚障害者の割合が少ないこともあり、職員が視覚障害に対する知識が乏しく、作業の提示方法や食事等の支援で意思疎通を図れなかったり、他の利用者とのコミュニケーションがうまくいかなかったりして、退所してしまうといったケースを聞きます。当然ながら他の障害の方と良好な関係を築き、楽しく通っている方も多くおられますが、視覚障害のある方が安心して利用できる事業所を、通所可能な範囲で作っていくには、各都道府県の障害保健福祉圏域に1か所ずつ設置するのが理想だと私は考えます。
 さらに言えば、その事業所に視覚障害専門の相談員を1名ずつ配置することができれば、手帳の取得から補装具・日常生活用具の相談、就労支援、生活訓練の相談に至るまで、視覚に関することであれば何でも受けられる体制をその福祉圏域で担うことが可能になります。また、そのことで現任の相談支援専門員、介護支援専門員(ケアマネ)にとっても、負担の軽減が図れるとともに、今まで以上に視覚障害者に必要な情報を、必要なタイミングで届けることが可能になります。
 もう一つ、この就B事業を行う上での大きな課題は利用者負担金です。就B事業に限らず、障害福祉サービスを利用した場合の自己負担は、世帯の収入状況に応じて設定されています。生活保護世帯や、市町村民税が非課税世帯の場合には自己負担金はありません。障害年金は非課税ですので、障害福祉サービスを利用している多くの障害者は負担金がないのが現状です。
 しかし、ここでいう世帯とは成人の場合、本人とその配偶者となっています。なぜ本人だけでなく配偶者が含まれるのか、その理由を見つけることはできませんでしたが、配偶者のいる中途障害の方にとっては、この設定が大きな負担となっている現状があります。
 たとえば、病気で視覚障害になり職を失った40代の男性が障害福祉サービスを利用する際、配偶者である妻が働いていれば課税世帯となり、自己負担金が発生します。月の上限額はあるにしても、もし家のローンが残っていたり、子育て中の世帯であれば、その男性が必要な福祉サービスの利用を控えることは容易に想像できます。
 併せて問題なのが、この自己負担の範囲がA型、B型、移行の就労支援事業にまで及んでいるという点です。皆さんの周りに会社にお金を払って働いている人がいるでしょうか? たとえ福祉的就労であっても、社会を構成する一員としてやりがいを持って働き工賃を得ています。それなのに、働けば働くほど工賃とほぼ同額の費用負担をすることには大きな違和感があります。
 利用者負担金における世帯範囲の改善と、負担対象から就労事業を除外しない限り、真の社会参加には繋がらないと思います。なお課税に関する問題は、本人が65歳を迎えた時に、老齢年金か障害年金かを選択する際にも考慮すべき大事な視点ですので注意が必要です。

5. 新規事業の検討と立ち上げ
 ウイズの二つの就B事業所には、現在3名の歩行訓練士と2名の点字指導員がおり、ウイズ利用者のほかに在宅の視覚障害者への訪問支援も県事業の中で行っています。しかし昨今は、ICT機器の習得を希望する方や、歩行への安全意識の向上により歩行訓練を希望される方も増え、就B事業の中でそれらのニーズに適切なタイミングで応えていくことに限界を感じています。
 そこで3年前より、法人の中期計画の中で視覚リハを提供するための新規事業立ち上げを模索してきました。現在、全国で視覚リハを提供している施設は、大きく分けて、情報提供施設、自立訓練事業、地域活動支援センター、地方自治体の単独事業に分別されますが、制度的な制限や市当局の方針から検討を重ねた結果、ウイズでは最終的に自立訓練事業を実施することとしました。この自立訓練事業の中には、看護師や理学療法士の配置義務のある機能訓練事業と、専門職を配置する必要のない生活訓練事業があり、平成30年の法改正で、どちらの事業においても視覚障害者への提供ができるようになったため、ウイズでは生活訓練事業の実施を選択しました。
 しかしながら、機能訓練にしても生活訓練にしても、ほぼすべての事業所が資金的に大変厳しい運営をされているのを知っていましたので、ウイズにとってもこの事業の実施は大きなチャレンジであります。

6. 地域で視覚リハ事業を成り立たせるために
 この機能訓練、生活訓練の事業は、他の障害においては集団でのプログラムを中心にしているため、利用者6名に対し職員1名という配置基準になっています。しかし、視覚障害者への支援は、歩行であれ、ICT支援であれ、1対1での支援を基本とするため、圧倒的に人件費の持ち出しが発生します。単独での一事業所の最低定員は20名ですので、生活訓練を週2日利用されることを予測しても定員の2.5倍、50名の利用者の確保とそれを支援するスタッフの確保が必要になります。地方都市においてその体制を整えることは容易ではなく現実的ではありません。
 そこで一つの方策として、生活訓練事業の定員を6名、就B事業の定員を14名とし、合計20名の多機能事業所とすることで、安定した運営が成り立つのではないかと考えています。生活訓練事業で培ったスキルで、就Bの作業幅を広げることができたら相乗効果も期待できます。

7. 将来的な目標
 ウイズの新たな取り組みは本年10月からスタートします。相談支援や福祉用具の販売等、構想にはありながらまだ準備段階のことも多くありますが、利用される視覚障害者には、身近な場所で身近な人から歩行やICTを学び、社会参加できること、また、自分が学んだ知識や技術を次の視覚障害者に伝えていくことで、支援の循環が図られることを実感してもらいたいと思っています。
 まずは浜松において、就Bと生活訓練による多機能事業が成り立つことを証明できれば、今後、多くの地方都市での良い先行事例になると考えています。