視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から 2022年7月号 第2回 「歩行訓練士の現在地」

視覚障害2022年7月号の表紙
雑誌視覚障害2022年7月号表紙

今年は、あっという間に梅雨が明け、そして猛暑、新型コロナの第7波が始まって、とにかく生きにくいひどい夏です。私は、夏が大好きですが、今年は憂鬱な夏を過ごさないといけないようです。

さて、私が月刊視覚障害の編集部からの依頼を受けてコーディネートさせていただいている「シリーズ視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から」の第2回は、原田敦史さんが執筆してくださった「歩行訓練士の現在地」です。
 このシリーズで私が執筆を依頼した11人の書き手は、皆さん、今「視覚リハ」の現場で、新しい試みをしている方達です。その方達の書かれた物を多くの方に読んでいただきたいという思いで、月刊視覚障害の編集の方と相談して、「執筆者の方の許可を得られれば」私のブログにも掲載して良いということになりました。

 今回著者の原田さんの許可をいただきましたので、私のブログにも掲載させていただくことになりました。
 PDFデータとテキストで掲載しておりますので、是非沢山の方に読んでいただきたいと願っております。

2022年7月号「歩行訓練士の現在地」.pdfをダウンロード

視覚リハ(ロービジョンケア)の現場から2022
第2回 歩行訓練士の現在地
    ~視覚リハの専門家はどのような位置づけか~
堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター 点字図書館
原田 敦史

1.歩行訓練士とは?
 「歩行訓練士」と聞くと皆さんはどのようなイメージをされるでしょうか。「白杖の選定や振り方・持ち方など操作方法を教えてくれる人」、「点字やパソコン・スマホの操作、日常生活の工夫を教えてくれる人」というようなイメージの回答をする方がいるでしょう。一方で、「見えないことに対する不安をなど聞いて相談にのってくれる人」と言う方もいるかもしれません。つまり、これといってはっきりしたイメージは定着していないとも言えるかもしれません。
 今回改めて調べてみました。インターネット上の『デジタル大辞泉』によると、歩行訓練士とは「目の見えない人や見えにくい人が白杖を使うなどして安全に歩行できるように指導・支援する専門職の通称。点字やパソコンによるコミュニケーションや、調理・掃除・食事など日常生活に必要な動作・技能の指導なども行う。視覚障害生活訓練等指導者。視覚障害生活訓練指導員」(注1)と書かれています。
 インターネット上で歩行訓練士を取り上げたサイトや記事などでも同じような表現が多く、歩行訓練士は歩行に関するリハビリテーションだけではなく、視覚障害全般のリハビリテーションに関わるという表現で書かれていることが多いようです。
(注1)デジタル大辞泉「歩行訓練士」https://www.weblio.jp/content/歩行訓練士(参照2022-5-31)

2.歩行訓練士になるには?
 歩行訓練士は視能訓練士や理学療法士とは違い、国家資格ではなく民間の養成学校がたくさんあるわけではありません。では、歩行訓練士になるにはどのような手続きを踏むのでしょうか。日本歩行訓練士会のホームページには次のような記載があります(注2)。
 
歩行訓練士になるには
 歩行訓練をはじめとする視覚障害リハビリテーション訓練に従事しようとする場合には、養成機関における指導者養成のカリキュラムを履修することが望ましいとされます。
 国内に設置されている養成機関としては、大阪市にある社会福祉法人日本ライトハウス養成部と埼玉県所沢市にある国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科が挙げられます。いずれも主に大卒者を対象としており、履修期間は2年間になりますが、日本ライトハウス養成部においては、視覚障害リハビリテーション関連施設の職員を対象に分割履修等の特別措置も設けています。
 
 しかし、ここに養成機関として紹介されている日本ライトハウス養成部(以下、日ラ養成部)と国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科(以下、国リハ視覚障害学科)で養成の概要を確認しても、「歩行訓練士」という言葉は出てきません。日ラ養成部は「視覚障害生活訓練等指導者養成課程」としており、国リハ視覚障害学科は「視覚障害リハビリテーションに携わる人材を養成している」と記載され、以前は「視覚障害生活訓練専門職員養成課程」だったとの記載があるだけでした。
(注2) 日本歩行訓練士会「歩行訓練士になるには」https://nippokai.jp/wp/foryou/tobeaom/参照2022-5-31)

3.歩行訓練士と視覚障害生活訓練等指導者の扱い
 それでは、法律や行政の規定ではどのように記載されているのでしょうか。視覚障害リハビリテーションの専門家(以下、視覚リハ専門家)は、どのように扱われ、位置付けられているのかを改めて調べてみると、以下のような文書が見つかりました。
 まずは歩行訓練士ですが、障害者総合支援法第77条に規定する市町村が行う地域生活支援事業の一環として、事業の実施について必要な事項を定めた「視覚障害者歩行訓練事業実施要綱」、「視覚障がい者(児)生活訓練事業実施要綱」という訓練実施要綱の中に出てきます。市町村によって表現が異なりますので例を挙げてみましょう。
・A町「視覚障害者に対して歩行訓練士を派遣し、」
・B町「歩行訓練や生活訓練の支援を行うため、歩行訓
 練士等の派遣を行うものとする。」
 一方、同様の事業をしていても「歩行訓練士」と表現をしていないところもありました。
・C町「視覚障害者に対し、視覚障害リハビリテーショ
 ンワーカーを派遣し、」
・D町「訓練士は視覚障害者家庭を訪問し、」
 いずれにしても、ここに出てくる「歩行訓練士」は、「どのような資格なのか」、「どのような養成を受けた訓練士なのか」という記載はありませんでした。
 続いて視覚障害生活訓練等指導者ですが、「中途失明等生活訓練事業」、「訪問型歩行・生活訓練事業実施要綱」の中に記載がありました。
・E町「視覚障害により移動に著しい困難を有する障害
 者又は障害児の家庭等に視覚障害生活訓練等指導者を
 派遣し、」
 ここでも、「視覚障害生活訓練等指導者」は「どのような資格」で、「どのような養成を受けた者か」という記載はありませんでした。ただ、こちらは日ラ養成部と同じ名称ですから、それを指しているのだと思われます。

4.歩行訓練士か? 視覚障害生活訓練等指導者か?
 もう少し過去の養成を遡ってみるとわかることがありました。日本で最初の養成は、日ラ養成部の「歩行訓練指導員養成講習会」で、その後「盲人歩行訓練指導者研修」と形を変えています。この頃までは歩行訓練の研修が中心の養成だったようです。そしてさらに形を変え、現在の「視覚障害生活訓練等指導者養成課程」に至っています。
 歩行訓練士である清水美知子氏は、最初の歩行訓練中心の養成修了者の呼称が「歩行訓練士」であったが、その後の歩行訓練以外の養成を受けたものが「視覚障害生活訓練専門職」、あるいは「視覚障害生活訓練指導員」と呼ばれるようになり、新旧二種類の呼び方が存在する形になったと分析をしています(注3)。
 その視点から考えると、現在は歩行訓練だけでなく、コミュニケーション、日常生活動作などを学んだ人の方が多くなり、「視覚障害生活訓練指導員」の割合が増えていっています。呼称にこだわる必要はないのではないかという考え方もあるかもしれませんが、視覚リハ専門家という点で、統一の認識を持てる呼称にしていくのも大切なことと思います。個人的には、今後の呼称という点では「視覚障害生活訓練等指導員」に切り替わっていく時期になってくるのかもしれないと思っています。
(注3)清水美知子「視覚障害のある人のオリエンテーションとモビリティ」http://www.ne.jp/asahi/michiko/visionrehab/trainingprogram(参照2022-5-31)

5.養成機関での修了人数と主な所属先
 呼称についての記述が続きましたので、少し話を変えて、養成を終えた人や実際に視覚リハ専門家として活動している人の数と、現在訓練に携わっている場所などについてまとめてみたいと思います。
 日ラ養成部の『視覚障害者の生活訓練実施機関の現状(2021)』によると、国リハ視覚障害学科の修了・卒業者が238名、日ラ養成部の修了・卒業者が693名、海外養成機関修了者が6名で、合計937名が養成を修了していると報告されています。
 そのうち、現在勤務をしている者は95施設・団体で272名となっています。全ての人がリハビリテーション訓練に携わっているわけではないため、訓練を実施している人数ということではありませんが、単純に都道府県の数で割ると、各都道府県に約5~6名の養成機関修了者がいるという計算になります。しかし実際には、1名しかいない地域がある一方で、10名以上いる地域などもあり、かなりのばらつきがあります。
 では、養成を終えたり、訓練に携わったりしている人が、どこに所属しているのかを見てみましょう。所属先の生活訓練(機能訓練)を実施している全国86施設の種別は次のようになっています。
 最も多かった施設は、視覚障害者情報提供施設(点字図書館)で23%、続いて指定障害者支援施設が18%、当事者団体が15%、そして、指定障害者サービス事業所、盲導犬協会、盲学校でした。加えて医療機関での訓練提供が5施設ありました。
 この割合ですが、2016年に日本視覚障害者団体連合(以下、日視連)が分析したデータとほぼ変化がなく、大きな動きはないようです。また、専門職というと特定の施設にいることが多いように思いますが、視覚リハ専門家については、福祉施設だけではなく教育・医療関連の施設にも所属していることがわかります。

6.養成機関修了者の施設等への配置基準はあるのか
 このように、視覚リハ専門家は福祉・教育・医療と幅広い施設種別で勤務をしているわけですが、各施設に養成機関修了者の配置基準があるのかというと、実はありません。そして、ほとんどのところが養成課程についての言及もされていません。
 養成課程について言及されている文書として、「平成21年度障害福祉サービス報酬改定に係るQ&A」があります。その中の「視覚障害者に対する専門的訓練の場合」という項で、「別に厚生労働大臣の定める従業者の具体的な内容」についての質問に対し、「別に厚生労働大臣の定める従業者は、以下の教科を履修した者又はこれに準ずる視覚障害者に対する訓練を行う者を養成する研修を修了した者とする」とし、具体的に日ラ養成課程、国リハ視覚障害学科が挙げられています。しかしながら、これは必須というわけではなく、配置すれば加算があるという程度にとどまっています。同様の表現は「同行援護のサービス提供責任者の資格要件」にもあり、「国リハ視覚障害学科の教科を履修した者又はこれに準ずる者」と記載されています。これも必須でなく資格要件として認められているという状況です。
 このように見てみると、視覚リハの専門家と言いつつも、配置基準はなく、専門性を保障できる待遇になっているとは言えないのが現状のようです。

7.視覚リハ専門家のこれからの課題
 「歩行訓練士とは?」という書き出しでスタートをしましたが、呼称も含めて一度整理をする時期に来ていると改めて感じました。呼称については現場でも、「どのような呼称であれば役割を伝えられるのか」、「わかりやすいのか」と苦慮しているという話を聞くことも多いです。実際に現場では、「歩行訓練士」や「視覚障害生活訓練等指導員」以外にも、「視覚障害リハビリテーションワーカー」や「視覚障害歩行指導員」など、各個人や職場などが様々な呼称を用いています。
 名は体を表すとも言いますが、このような呼称の乱立が職域の輪郭をぼやかして、業界以外の方から「誰に対してどのような支援をする人なのかはっきりしない」というイメージを持たれる原因なのかもしれません。
 そういう意味では、職域や提供するサービス内容の整理も必要だと思っています。先ほどの日本歩行訓練士会のホームページでは、「視覚障害リハビリテーション訓練に従事しようとする場合には、(中略)カリキュラムを履修することが望ましい」としており、リハビリテーション訓練を実施するにあたり、養成履修が必須とは書いていません。そして、実際に各地で歩行訓練以外のリハビリテーション訓練を担う人は多くおり、欠かせない存在となっています。
 日視連の「平成30年度障害福祉サービス等報酬改定に関する意見等」(以下、平成30年度意見等)によると、視覚障害者への訓練・支援に高度な専門性が必要であると記されています。そして、実際の訓練現場では、視覚リハの養成機関を修了した歩行訓練士等が訓練の中心を担っていると分析をしています。この辺りの整理をどうしていくのか。まずは高度な専門性を持つ視覚リハ専門家の資格を整理して、職域を明確化していく必要があると思います。
 リハビリテーション訓練は、誰でもできるというわけではないですが、現状のように誰がサービスを担うのかはっきりしていないというのは、視覚リハ訓練の質を担保することができなくなってしまいます。
 そして、配置基準の検討も必要だと思います。現在、視覚障害者の支援を行う機能訓練施設以外では配置を求められていません(実際には「ここにも配置できる」という程度で必須ではありません)。もちろん、すでに作られているシステムの活用していくことは重要です。その結果、機能訓練施設・事業所が各地にでき、自宅に近いところでリハビリテーションが受けられることが理想の形の一つと言えるかもしれません。
 しかし、「平成30年度意見等」によると、視覚リハを実施している自立訓練(機能訓練)の事業所数は17(平成29年)で、実働をしている自立訓練(機能訓練)事業所の約9%しか視覚リハを実施していないとされています。これから広げて行くには、かなりの時間がかかることが予測されます。
 では、どのようにしたらいいのでしょうか。まずは視覚リハ専門家の資格を明確にし、配置基準の整備を行っていくということが必要だと思います。先ほど書いたように、養成課程修了者は、所属先を見ると、医療・障害福祉・教育と幅広い施設種別で従事していることがわかります。これは、どの分野においてもその専門性を求められる場面が多いということだとも言えます。しかし、配置基準がないため、「どこにいてもいい」という判断をされて従事できているのかもしれません。これは裏を返せば配置基準がないため、「必ずここにいなければならない」というわけではなく、視覚リハ専門家がいなくても良いということになってしまって、不在地域ができてしまっているとも言えます。
 多くの調査によると、視覚障害当事者は「歩行訓練や生活訓練を地域で受けたい」と回答しています。しかし、このままの形では十分なサービス提供ができません。すでにいくつもの施設団体が、独自の判断で取り組んでいるケースもあり簡単ではありませんが、例えば、訓練実績のある視覚障害者情報提供施設には必ず養成課程修了者を配置するようにし、そこで相談・訓練を提供していくということも考えられるのではないだろうかと考えています。機能訓練施設と併せて視覚リハ専門家が配置される場所となれば、当事者にとっても選択肢が増えることなり、悪くないのではないでしょうか。
 どのような資格・体制で視覚障害リハビリテーションを継続的に提供していくのか、業界全体で検討をしていく必要があると改めて思っています。

(図表説明)
養成機関修了者の所属先の円グラフ。全国86施設に対し、視覚障害者情報提供施設23%、指定障害者支援施設18%、当事者団体15%、指定障害者サービス事業所9%、盲導犬協会7%、盲学校4%、その他24%。