高齢視覚障害者をとり巻く諸問題を直視する――支援システムの構築を目指して 第9回 就労継続支援B型事業所が提供する生きがい・居場所作りの実践から見えること

雑誌月刊視覚障害10月号表紙の写真
月刊視覚障害10月号

毎月同じような書き出しで始まってしまうのですが、1ヶ月なんてアットいう間です。本当に時間の建つのが早いですね。季節は、秋を駆け抜けています。気候変動のためでしょうか、秋はどんどん短くなって行くみたいです。夏の暑さの中休眠していたシクラメンが復活し、立派な葉っぱが出てきています。そして、コロナのことがあるので、私は、早々とインフルエンザのワクチン接種を受けました。

 さて、昨日月刊視覚障害の11月号が私の手元に届きました。そこでいつものように10月号の私の記事を掲載いたします。この連載も、2021年1月号まで、ちょうど1年となります。残り少ない中ですが、高齢視覚障害者を取り巻く問題について、できるだけ幅広く見て行けたら良いなと思っております。

夜のベランダにあるシクラメンの鉢植、立派な葉が出てきています。
ベランダのシクラメンの鉢植

はじめに
 読者の皆様は、「就労継続支援B型事業所(注1)」をご存じでしょうか? 「就労」と聞くと、高齢視覚障害者のリハビリテーションとは無縁なように考えがちですが、今回ご紹介するNPO法人六星(斯波千秋代表理事)が運営するウイズ蜆塚(しじみづか)(静岡県浜松市)は、視覚障害者に特化した就労継続支援B型事業所で、利用者の半数以上が高齢視覚障害者です。
 所長の古橋友則さんは、視覚障害者生活訓練等指導員(歩行訓練士)であるとともに、就労継続支援B型事業所の機能を駆使して視覚リハに取り組んでいます。多くの高齢視覚障害者、あるいは介護保険制度の適応年齢の視覚障害者が、なぜウイズ蜆塚を利用しているのか、その理由と、ウイズ蜆塚が地域の中で果たしている役割、高齢視覚障害者の生きがい・居場所作りを支援している実際と問題点、今後の課題などについて、古橋さんにオンラインでお話を伺いました。

1 六星ウイズ半田・蜆塚開所までの歩みと運営の特徴
(1)開所までの歩み(注2)
 1993年に、視覚障害者が中心となって、視覚障害者のための白杖作り、点字印刷、小物作りなどを行ないながら、視覚障害者が安心して働け、社会参加できる授産施設を立ち上げる準備会が設立されました。1996年に、静岡県浜松市半田町で立ち上げられた、我が国初の視覚障害者中心の小規模作業所が、現在のウイズ半田の前身です。2006年に特定非営利活動法人格を取得、2007年に第2ウイズ設立の準備のための資金集めなどを始め、2008年ウイズ蜆塚の開所にこぎ着けました。
 障害者自立支援法の施行に伴い、2008年12月にウイズ半田が、そして、2009年10月にはウイズ蜆塚も就労継続支援B型事業所に移行しました。
(2)ウイズ半田とウイズ蜆塚の運営の違い
 古橋さんによると、最初に立ち上げたウイズ半田は、幼い頃からの視覚障害者で、比較的若い方が多く、毎日通って安定的に仕事をしたい方向けの作業を中心とした事業所でした。
 その後、中途視覚障害者、特に高齢視覚障害者の利用も増えていく中で、「もう少しゆっくり働きたい」、「レクリエーションを増やしてほしい」という声が出てきました。また、地域の視覚障害者からの「介護保険によるデイサービス施設に行っても『なじめない』」という不安な声や、高齢中途視覚障害者の「体力的に毎日は通えない」などといった要望に応えるため、第2ウイズとしてウイズ蜆塚を開設したそうです。
 ウイズ蜆塚では中途視覚障害者や高齢視覚障害者のニーズに応えて、個人の体力や生活リズムに合わせて通う回数を柔軟に決定し、作業以外にも、生活に必要な知識を学んだり、レクリエーションを楽しんだり、地域と交流するプログラムも行なうなどという特徴を持った事業所として運営してきたそうです。

2 ウイズ蜆塚の概要
(1)利用者の状況(2020年7月現在)
 登録している利用者は28人です。障害種別は、視覚障害27人、精神疾患1人となっており、男女別では、男性12人、女性16人。1日の利用者数は平均18人です。
 28歳から88歳の方が利用し、平均年齢は64歳8カ月。65歳以上の利用者は、28人中15人(53.6%)です。
(2)1日のスケジュール
 利用者は午前9時30分までに来所し、10時過ぎまで朝の会を行ないます。30~40分程度と時間をかけ、新聞を読んだり、畑で採れた野菜を触ったり、行事の説明をしたりと、情報共有を行なう大事な時間です。
 10時過ぎから12時までが作業で、布草履や手工芸品作りのほか、お土産品の箱折りなどを中心に行ないます。
 12時から13時までが昼休憩で、13時から15時まで再び作業。その後、おやつを食べて、15時15分ごろ帰宅します。
(3)行事・レクリエーション
・利用者の誕生会(概ね2カ月に一度、外食・買い物など)
・日帰り旅行(貸し切りバスにて陶芸やそばなどの手作り体験や、リンゴやメロン狩りなどの収穫体験を実施)
・季節の行事(流しそうめん・カラオケ大会・福祉まつり参加・クリスマス会・餅つき・お花見など)
(4)通所の方法
 現在、公共交通機関などを利用して自分で通っている方は28人中3人。残りの25人は、事業所の車で自宅まで送迎しています。

3 ウイズ蜆塚の高齢視覚障害者のためのリハ
(1)あえて選んだB型事業所の形態
 古橋さんに「中途視覚障害者や高齢になってから中途視覚障害になった方たちの自立支援や居場所作りを行なう施設として、なぜ就労継続支援B型事業所という形態を選んだのか」を伺ってみました。すると、下記の6点を挙げてくれました。

1.障害支援区分(障害の特性、程度に応じて必要とされる支援の度合い)に関係なく利用が可能である。
2.雇用ではなく、また介護保険にもないサービスのため、65歳以上での利用も可能である。
3.利用期間の制限がなく、継続した利用が可能である。
4.生産活動を行なうことで工賃を得られる。
5.週2、3回の利用も可能である。
6.実施施設に対する障害福祉サービス等報酬の中に「送迎加算」があるため、自力通所ができない方でも通える。

 特に生産活動に参加して工賃を得ることの効果について、古橋さんは、「中途で視覚障害になった高齢の方は、多くが『できない』ことが増える中で精神的にも孤立し、施設や家族、世間から『支援される側』としての立場を求められ、劣等感を持ったり、自信を失ったりしていきます。生産活動に参加することで、自分にもできることがあるという『自信』の回復と、誰かの『役に立っている』というやりがいを持てます。そのことを目に見える形で実感できる評価が工賃です」と言います。
 また、小中学校への交流や出前授業を通して、利用者に「社会参加をしている」ことも実感してもらっています。
 ただ、工賃は毎日通っても月12,000円程度、利用者全体の平均額は月6,200円程度しか出せていないことに問題を感じてもいるそうです。「中途視覚障害者の豊富な経験を仕事に結び付ける工夫と努力が必要だと思っています」とのことでした。
(2)ウイズ蜆塚利用者の生の声(注3)
 Yさん(男性、82歳)は、地元自動車メーカーの支店営業所勤めをしていましたが、網膜色素変性症によって45歳ぐらいから視力が低下。52歳で読み書きができなくなったので、いわゆる自宅待機というかたちになりました。悶々と「これからどうしようか」「盲学校へ行ったほうがいいのかな」と思い悩みながら、40坪ぐらいの畑を借りて家庭菜園をやっていたと言います。
 ところがYさんが66歳の時、奥さんが亡くなります。Yさんの視力もどんどん落ち、介護保険のホームヘルパーを依頼しました。週の内、月・水・金曜日の午前中はホームヘルパーに炊事や買い物を頼んでいたのですが、午後、ホームヘルパーが帰ると「パッと空白の時間ができ」、寂しかったそうです。
 70歳の時にウイズ蜆塚が開所。誘われて、利用を決めました。「職員さんが本当に親切丁寧にサポートしてくれたんで、たいへんありがたかったし、仲間がだんだん増えて、会話して、仕事をする、手足を動かすのが、楽しみで。週2回でしたけども、来るのが楽しみで、多少、心地よい疲労があるんです。そうすると、ここを利用したときには夜は熟睡できて、健康のためによかったと思います」というのがYさんの感想です。
 週2日、火・木曜日にウイズ蜆塚に通っており、「考えられないですね、ウイズをやめるということは」と言います。

4 視覚障害者に特化できる理由と見えてきた課題
(1)浜松のウイズならでは
 障害者総合支援法を根拠として行なわれるサービスについては、以下のようなことが一般的に言われています。
 利用者を視覚障害者に限定することはできず、3障害と呼ばれる身体・知的・精神障害の種別を問わないで、サービスによっては難病なども含めて受け入れなければならない。そして、利用者が65歳以上になると、行政機関から「介護保険のサービスを優先するべき」と言われる、ということです。ウイズ蜆塚ではそういったことに対して、どのように向き合っているのでしょうか。
 古橋さんのお話では、確かに就労継続支援の事業所では、要請があれば障害種別によって利用を「断る」ことはできないものの、施設の特徴として主たる障害を示すことができ、「私のところは視覚障害に特化して受け入れたい」という表明をしているとのこと。他の障害の方からの相談や、利用したいという打診があるけれど、ご本人や役所と相談をして、ウイズ蜆塚よりもっと適した施設を紹介するようにしているそうです。
 「視覚障害の方を受け入れられる施設は、浜松ではほかにないので、視覚障害の方から相談があった時、いつでも受け入れられるようにしておきたい」との方針です。
 また、65歳以上の介護保険制度の対象となる視覚障害者については、ウイズ蜆塚が「視覚障害のケアに適している施設」ということが、介護保険に関わる方にも比較的浸透しているようです。これは永年にわたり浜松で活動を続けてきた実績があればこそだと思います。
(2)利用者の多様化
 しかし、古橋さんは、現状に満足しているわけではありません。むしろ、ウイズ蜆塚のような施設の存在を知らないケアマネジャー、関係機関が、未だ少なくないことを大きな問題だとし、今後も普及・啓発に努力すると言います。
 さらに、視覚障害に特化したウイズの特徴を前面に出しつつも、「利用者の多様化や重複化により、視覚障害以外の障害に対する専門性の確保が必要。また高齢の方だけでなく働き盛りの利用者の増加により、ウイズ半田と蜆塚の住み分けが難しくなり、作業内容の見直しやプログラムの組み直しも求められます」と分析します。支援が重度の方に偏りがちになるため、工賃を上げられる仕事の導入が難しくなってきたのだそうです。
 そのほか、「課税されている利用者は、利用料の自己負担があり、それが工賃を上回るなど、利用者間の不公平感などが出てくる」とのことです。作業収益を上げることについては、スタッフがより努力することが必要ですが、それだけでは根本的な解決にはならないので、「自己負担制度」それ自体の見直しを政府に働きかける必要があると、古橋さんは考えています。

5 地域の障がい者自立支援連絡会での活動
 以上のような課題に加え、障害福祉サービス制度で運営しているウイズ蜆塚の利用者らが、介護保険のサービスに切り替わる中で起こる問題も存在します。古橋さんは、障害者や高齢者が安心して暮らせる地域を作るために地域の各機関によって組織される浜松市中区の「障がい者自立支援連絡会」に参加し、さまざまな事例を挙げて、問題提起をしています。これも、古橋さんの重要な活動の一つです。
 障害福祉サービスを利用している視覚障害者が65歳を迎えた時に起こり得る課題は、以下の5点とのことです。

1.介護認定調査時において、障害特性が充分に反映されておらず、障害支援区分では重度の判定が出ていても、介護認定では、要介護ではなく、要支援の方が多い。
2.居宅介護(家事援助)などは介護保険サービスにもあるため、障害福祉サービスから切り替わるが、その際、介護認定によって支給量が減ったり、障害特性に合ったヘルパーの確保が難しかったりする。また、それに対する行政の対応策が、ケアマネジャーや当事者に、充分には知られていない。
3.介護認定を受けた場合、ほとんどの方は「相談支援専門員」から「介護支援専門員」へと切り替わるが、必要な障害福祉サービスが介護支援計画に反映されることは、現状では少ない(65歳を過ぎて中途で障害になった方への情報提供は、より難しいと思われる)。
4.介護保険制度にないサービスは障害福祉サービスで対応できるのが原則だが、同行援護や就労系サービス、日常生活用具など、障害特性に応じたサービスの提案はほとんどない。
5.障害福祉サービスでは自己負担金のなかった非課税の方が、介護保険サービスに移行すると、以前と同等のサービスを受けても自己負担金が発生する。それ自体は仕方がないが、そのことを本人が充分理解できていない場合がある。

6 今後の展望(夢)
・「遊びたい」「学びたい」「運動したい」という次のニーズへの対応
・気軽に利用できる視覚障害者向けのICT支援事業の開設
・福祉機器の常設展示、紹介、販売
・視覚障害専門の相談支援事業
・グループホームなど、単身者の生活の場の支援
・市内の介護施設や障害者施設に出向いて、入所している視覚障害者や職員向け研修を行なう

 古橋さんは、上記の6つの夢を語ってくれましたが、その内、「気軽に利用できる視覚障害者向けのICT支援事業の開設」は現在、立ち上げ準備にかかっています。ICT機器を使ったことがなく、苦手意識の強い高齢視覚障害者にも、スマホやタブレットを使う便利さや楽しさを教えること、しかも視覚障害当事者が指導に当たるようなシステムを目指しています。
 もう一つ、「視覚障害専門の相談支援事業」も、ぜひ近いうちに立ち上げたいそうです。障害者総合支援法における相談支援事業(計画相談事業)は、やはり3障害を区別なく受け入れる必要があるのですが、市町村の裁量的経費で委託を受けた「視覚障害専門」の相談支援事業を行なっている神戸市や仙台市を参考にしていきたいとのことです。(注4)
 この連載の4回目で触れたように、視覚障害者の相談ケースは非常に少なく、障害福祉サービスの利用計画を作成する相談支援員も、介護保険サービスのケアプランを作成するケアマネジャーも、ほとんど携わったことがありません。そのため、限られた情報しか持たない当事者の意向を聞いてプランが作成されているのが実際です。必要なサービスが受けられない視覚障害者がたいへん多いという状況の解消を、古橋さんは望んでいます。

第9回のまとめと次回の予告
1.この連載の7、8回目、そして今回では、機能訓練施設、訪問型の視覚リハ施設、就労継続支援B型事業所で実践されている高齢視覚障害者に対する視覚リハの実際を見てきました。これらの施設は、視覚と他の障害を併せ持つ方、高齢視覚障害者に対する支援を積極的に展開し、変化する利用者のニーズに応えようと試行錯誤してきたのです。
2.その試行錯誤の中から、視覚リハが達成すべきことは、「当事者一人ひとりが自分でできることと、できないことを知り」「できることは自分で行ない、できないことは社会福祉制度を利用し、地域の方たちの助けを借りて」「自立して自分らしく生きていける方法を当事者と支援者が一緒に探すこと」、そして「社会の中で安心して生きていける場所を作ること」であると明確になってきたと思います。
3.現場での試行錯誤の中で、「2.」を達成するための方法論の確立や支援システムの構築についての見通しも徐々に確立されているように思います。これからは、この確立されてきた理念や方法論を充実させるとともに、私たち視覚リハ専門家でしっかりと共有していくことが求められるのではないかと考えます。

 第10回では、この連載を高齢視覚障害当事者の立場で読んでくださり、編集室を通じて私に率直な意見をぶつけてくださった方の「高齢視覚障害当事者としてのリアルな思い」を伺って掲載する予定です。

注1 就労継続支援B型事業所については、障害者総合支援法第5条14などに定められています。
注2 NPO法人六星ウイズのホームページを参照。http://npo6seiwith.sakura.ne.jp/
注3 NHKラジオ第2『視覚障害ナビラジオ』「ウィズ・サポーターズ 再起の道を照らしたい~浜松:NPO法人六星~」(2019年7月14日他)の中で利用者の一人としてインタビューに答えた方の事例。放送は、下記URLから、2021年7月13日まで聞くことができる。https://www.nhk.or.jp/heart-net/shikaku/list/detail.html?id=47184#contents
注4 厚生労働省のウェブサイト「障害のある人に対する相談支援について」が比較的分かりやすい。https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/soudan.html
 障害者の相談支援事業の変遷について詳しく知りたい方は、厚生労働省作成「行政説明 障害者福祉における相談支援の充実に向けた取組について」をご覧ください。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000114063_5.pdf