高齢視覚障害者をとり巻く諸問題を直視する――支援システムの構築を目指して 第4回 視覚障害者に特化した障害福祉サービスに関するケアマネジャーの知識・経験

雑誌「月刊視覚障害」5月号の表紙の写真
「月刊視覚障害」2020年5月号表紙

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言、東京などに出されていたものも5月25日の夜に解除されました。けれども、まだまだホット気を抜けないなと思っています。皆さんはいかがでしょうか。
 さて、1ヶ月なんて本当にあっという間ですね。月刊視覚障害の6月号が今日私の手元に届きました。それで、いつものルールに従って、1ヶ月前に発行された5月号に掲載した「高齢視覚障害者を取り巻く問題を直視する」の連載4回目をこのブログで公開します。読んでいただければ幸いです。
 今年は猛暑になりそうだとのこと、マスクをつけていると熱中症になりやすいとも聞いています。ストレスフルな環境の中、皆さんお体を大切に過ごしましょう。

 

 第4回 視覚障害者に特化した障害福祉サービスに関するケアマネジャーの知識・経験

 1 ケアマネジャーの役割
 ケアマネジャー(介護支援専門員)は、65歳以上(特定疾病では40歳以上から。以下同)で介護保険制度でのサービスを受けようとする方たちの相談に乗り、その方たちのニーズを把握し、適切なサービスが受けられるようにケアプラン(サービス計画)を立てるという重要な役割を担っています。介護保険でのサービス提供は、このケアプランに基づいて行なわれます。ケアマネジャーは介護保険制度実施に当たり利用者と各事業者、行政関係者をつなぐキーパーソンなのです。
 ところで視覚障害(他の障害も同じ)によって、障害福祉サービスを受給していた方たちも「社会保障制度の原則である保険優先の考え方」の下、障害福祉サービスと同種の内容のサービスが介護保険で受けられる場合は、65歳以降は介護保険制度に移行することになります(「障害者総合支援法」第7条)。しかし、介護保険のサービスでは受給できない、障害に特化したサービス、たとえば同行援護や就労支援サービス、自立支援のための訓練などに関しては、利用者のニーズが適正に満たされるように障害福祉サービスを利用することが可能です。
 介護保険の受給対象となっている65歳以上の障害のある方たちが、障害に特化したサービスを受けられるようにするためには、ケアマネジャーによる「ぜひ、障害者に特化したサービスを受ける必要がある」という後押しが非常に重要です。特に、高齢になってから病気などの原因で障害を持った方たちは、障害者に対する様々なサービスがあることすら知らないまま、介護保険のサービスを利用することになるので、ケアマネジャーからの情報提供が欠かせないものとなります。
 これまでの連載で、視覚障害に特化したサービスやケアの方法、効果について触れると同時に、それらの支援方法が、一般にも他の専門家にも、ほとんど知られていないということを述べてきました。今回は、ケアマネジャーたちが、視覚障害に特化したサービスについてどの程度知っているのかについて、非常に小規模ですが調査を行ないましたので、ご紹介します。

 2 調査までの過程と調査票
(1)アンケートの実施
 ひと口に視覚リハの専門分野といっても、たいへん広く多様です。そこで、眼科医などの医師や歩行訓練士(視覚障害生活訓練等指導員)、教員・研究者らが所属する視覚障害リハビリテーション協会では、各分野に特化した研究ができるように、2年ほど前に分科会制度を発足させ、その分科会の活動に協会として補助を行なうことになりました。
 かねてより「高齢視覚障害者」に対するリハビリテーションについて集中的に勉強したいと考えていた私は、自ら代表となって「高齢視覚障害リハビリテーション事例研究分科会(高齢視覚リハ分科会)」を協会に申請し、活動を行なってきました。その活動の中で「ケアマネジャーの方たちが視覚障害者とどのくらい関わりを持っているのか、視覚障害に特化したサービスについてどんな知識を持っているのか」について知りたいという思いがメンバーの中に起こりました。その思いを理解して調査に協力してくださる方が見つかったので、昨年秋に実施された東京都のある区の主任ケアマネジャー研修会で調査表を配布し、回収することができたのです。
(2)調査票の内容
調査票は、ケアマネジャーや介護職向けに「視覚障害について」の研修を行なっている施設が、参加者を対象として配布したアンケートを参考にさせていただき、高齢視覚リハ分科会有志が作成しました。作成に際して「忙しい業務をこなしている主任ケアマネジャーの負担にならないよう、質問項目を絞り、選択式を中心にする」という配慮をしました。突然の調査について協力してくださった方たちには、深く感謝します。

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調査票
1.視覚障害を持つケースの担当経験についてお尋ねします。
 (1)現在、あなたが担当している総ケース数は?(視覚障害者を含む)
 (2)これまで、そして現在、視覚障害を持つ方(軽度のロービジョンの方を含む)を担当したご経験は?
  ①現在、視覚障害を持つ方を担当している(ケース数)
  ②現在は視覚障害を持つ方を担当していないが、過去に担当したことがある(ケース数)
  ③視覚障害を持つ方を担当したことはない
2.視覚障害者が受けられるサービスについての設問です。当てはまるものにチェックしてください。
 ①同行援護で外出の支援が受けられる
○聞いたこともなく、知らない
○聞いたことはあるが、よくわからない
○知っているが、利用者に利用を勧めたり情報提供をしたりしたことはない
○知っていて、利用者に利用を勧めたり情報提供をしたりしたことがある
(以下、②から④までも①と同じ選択肢)
 ②補装具費支給制度により、白杖の支給を受けられる
 ③日常生活用具給付等事業により、重度視覚障害者は音声読み上げ機能付きの時計の給付を受けられる
 ④視覚障害者向けの歩行訓練・生活訓練がある
3.視覚障害を持つ方への支援に関して難しいと感じることはありますか?
 ①ある⇒どのようなことに難しさを感じますか?(記述式)
 ②ない
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※調査内容が分かる範囲で一部抜粋

 3 調査結果とそこから見えてきたこと
 調査表は、前述の主任ケアマネジャー研修会に参加した約40人に配布。22人から回答が得られました。
(1)担当するケース数について
ⅰ)総ケース数
 1人のケアマネジャーの持ちケースは、最多で46ケース、最少で23ケースでした。22人の方が担当しているケースの合計は669ケースで、1人平均約30ケースです。
 ところで、持ちケースを「1」あるいは「2」と回答した方が3人いましたが、これは「視覚障害者のケース数」と誤解した可能性があります。その3人を除いた平均約35ケースを、3人も担当すると仮定し、22人の総ケース数を約770ケースと推測しても、実態とそれほど大きなずれがないと考えられます。
ⅱ)視覚障害者のケース数
 視覚障害者のケースに限っての回答では、現在担当している視覚障害者のケースは、「1」が10人、「2」が3人で、合計13人が16ケースを担当しています。「現在、視覚障害者のケースを担当していない」と答えたのは9人でした。
ⅲ)視覚障害者を担当した経験
 過去から現在も含めて、視覚障害者を担当した経験を尋ねると、経験のある方が16人、一度も担当した経験のない方は6人でした。経験のある方でも、担当したケース数は「3」が最多でした。
ⅳ)ケース数の比較
 22人の方が現在、少なくとも669(あるいは約770)ケースを担当している中で、視覚障害者のケースは16ケース。最多の方でも3ケースしか経験がなく、一度も担当した経験のない方が6人という結果から見て、ケアマネジャーが視覚障害者のケースを担当し、経験を積む機会は非常に乏しいといえるでしょう。
(2)視覚障害に関するサービスの周知度について
ⅰ)同行援護について
 「知っている」が18人、「聞いたことはあるが、よくわからない」が3人、「知らない」が1人、「知っている」と回答した方の内、担当した視覚障害者に情報を提供して利用を勧めた方は12人で、同行援護の周知度は比較的高いといえます。ただ、ケアマネジャーが情報を提供し、利用を勧めたあとの経過については、今回の調査では把握できていません。
ⅱ)補装具について
 「知っている」が16人(内、利用者に情報を提供して利用を勧めた方は10人)、「聞いたことはあるが、よくわからない」が6人でした。
ⅲ)日常生活用具について
 「知っている」が12人(内、利用者に情報を提供して利用を勧めた方が6人)、「聞いたことはあるが、よくわからない」が7人、「知らない」が3人でした。
ⅳ)歩行訓練などのリハについて
 「知っている」が2人(内、利用者に情報を提供して利用を勧めた方は1人)、「聞いたことはあるが、よくわからない」が11人、「知らない」が9人でした。
22人の主任ケアマネジャーたちの回答だけですべてを語ることには無理がありますが、調査前の私たちの予想通り、歩行訓練などのリハについての周知度は、ほとんどないといってもいい過ぎではないと考えます。
(3)自由記述「視覚障害を持つ方への支援に関して難しいと感じること」についての筆者の私見
 回答してくださった22人の内、「難しいと感じることがある」と回答した方は17人で、その内16人が難しさの内容について自由記述欄に書き込んでいます。
 記載内容は多岐にわたり、書き込んでくださった方の基礎となった仕事(介護福祉士・看護師・社会福祉士など)や仕事歴、ケアマネジャーとしての経験などと照らし合わせて分析しないと、きちんとした傾向を出すことはできないと考えますが、ここでは私見を述べさせていただきます。
 まず、記述内容から見て、調査に答えてくださったケアマネジャーの方たちが「視覚障害のあるケースで、そのことが解決すべき問題の中心」と考えているのは、全盲の方が対象のケースか、それに近い重度の見えにくさのある方(ロービジョン)が対象のケースのみであり、中度より軽いロービジョンについては、視覚障害者という認識を持っていないということが読み取れました。
 また、視覚障害者の相談に乗り、解決策を提案する時に困難を感じているのは、幼い頃から(先天の方も含む)の全盲か、それに近い重度の見えにくさのある方が対象となっているケースでした。
 以上のような傾向には、ケアマネジャーも一般社会と同様、「視覚障害者=全盲」という認識しか持っていないという背景があると思われます。

第4回のまとめと次回の予告
 1.第4回では、主任ケアマネジャーに対して行なった調査の結果と、そこから見えてきたことを、筆者の考え方も交えて紹介しました。
 2.ケアマネジャーという公的資格は、医師や看護師、理学療法士などの医療系の専門資格、介護福祉士・社会福祉士などの社会福祉系の専門資格を持ち、5年以上の所定の実務経験を積んだ上で得られる厳しい資格です(注1)。しかし、医療系、社会福祉系などの基礎資格を取得するための教育の中で、視覚障害の知識を得るための内容は非常に少なく、特にロービジョンに関してはほとんど含まれていません。従って、ケアマネジャーは、視覚障害についての知識をほとんど持たず業務に従事している状況です。
 3.調査からもわかるように、ケアマネジャーが視覚障害者のケースを担当する経験は非常に少なく、また、視覚リハ専門家の存在が一般に知られていないことと相まって、視覚リハ専門家と連携して担当の視覚障害者の抱えている問題を解決していく経験を持つことも非常に難しい状況です。
 4.現職のケアマネジャーに対する研修内容は、介護保険制度と相談援助技術がほとんどで、視覚障害に特化した専門的なサービスや障害福祉関係のサービスについて学ぶチャンスはほとんどないのが現状のようです。
 5.介護保険の申請時にケアマネジャーや利用者が「見えない・見えにくいことが、介護保険でのサービス利用の主たる要件である」と考えて、主治医である眼科医の意見書を提出すると、担当窓口から「内科医や整形外科医の意見書が取れないのか」といわれることがあると何人かの方から伺いました。介護保険の認定では、「見えない・見えにくいこと」は、要件として担当窓口に理解されていないことも多いように思えます。
 6.実は、介護保険では受けることができない視覚障害に特化したサービス(同行援護など)の、介護保険対象となっている視覚障害者に対する柔軟な運用については、「通知」(注2)や「事務連絡」(注3)として厚生労働省から各地方自治体に出されています。しかし、これらの通知類は、地方自治体の担当者に徹底されないことや、窓口を担当する職員が3年ほどで異動することもあり、介護保険・障害福祉双方の窓口担当者が「併給できない」と思い込んで、門前払いをすることが多々あると聞いています。また、介護保険の受給者が障害者福祉サービスを利用する時の国庫補助金の額は、65歳未満のそれに比べて大幅に減額されます(注4、5)。これでは、65歳以上の介護保険利用者が障害福祉サービスを利用することは、地方自治体の負担を増やすことになるので、当事者やケアマネジャーが申請しても、できるだけ併給を認めないという方向になるのは、当たり前のことといえます。
 7.従って、国の政策全体が「65歳以上になれば介護保険で」押し通したいという方向にあるのだと、私は強く思います。これでは、「併給」ができるということが、当事者にもケアマネジャーにもきちんと認知されないのは当然の結果です。
 8.今回紹介した調査は、回答者数22人という、本当に小規模な調査で、この調査から、ケアマネジャーの全体像が分かったなどとはいえないことを承知しています。それなのにここに紹介したのは、高齢視覚障害者のリハビリ(支援)に関わる多職種の方が、それぞれの連携相手が「どんな制度に基づき働いているのか」「視覚障害についてどんな教育を受けているか」などについて、客観的に理解する試みが大切であることを示したかったからです。高齢視覚障害者の支援を行なうためには、多職種連携が欠かせません。その連携する相手の方たちが、視覚障害者(見えない・見えにくい人たち)をどのように理解しており、どのようにケアしようとしているのかについて、研究者や当事者団体が力を合わせて、大規模な調査を行ない、その上で視覚リハ専門家が多職種の方たちと相互に協力し合い、支援体制を構築していくべきだと考えます。

 第5回では、視覚リハの周知・普及が進んでいないことの理由について、歴史的背景なども交えて検討する予定です。

注1 ケアマネジャーについては、厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000114687.pdfなどを参照
注2 平成19年3月28日付、厚生労働省通知「障害者自立支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」(障企発第0328002号・障障発第0328002号)
注3 平成27年2月18日付、厚生労働省事務連絡「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度の適用関係等に係る留意事項等について」
注4 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行令第44条第3項第1号および第3号
注5 平成18年9月29日付、厚生労働省告示第530号「厚生労働大臣が定める障害福祉サービス費等負担対象額に関する基準等」