荒川たんぽぽセンター(荒川区心身障害者福祉センター)を訪問して

東京で視覚障害リハを実施している施設を訪問して、いろいろと学ばせていただこうという私の試み、7月の末から猛暑になって、そろそろ夏休みモードも出て来て、少しスピードか鈍ってしまいましたが、そんな中、快く私の訪問を受け入れてくださった、荒川たんぽぽセンター(荒川区心身障害者福祉センター)に8月16日に訪問することができました。
 この日も朝から猛暑、亀戸駅から日暮里駅行の都バスに揺られて30分、荒川区役所前の停留所から、私の足で7分程度の場所に、センターはありました。
 お話を聞かせてくださったのは、このセンターでの職名が「視覚訓練相談員」の加藤さんとセンター所長の石垣さんでした。
 加藤さんは、センターへ就職してまだ2年なのだそうで、センター設立当時からの事情に詳しい石垣所長が同席してくださり、センター設立時の事情や、センター全体の仕事の流れなどを話してくださるというすてきな段取りで、とても和やかにお話を聞くことができました。

1 センター設立当時から「当たり前」にあった視覚障害リハビリテーション

 荒川区心身障害者福祉センターは、昭和48(1973)年に開所した区直営の施設で、B型センターとして発足したのですが、「A型に負けない理想的なものを作りたい」という意気込みの元、発足間もない頃から常勤のスタッフとして、ST(言語聴覚療法士)2名、PT3名、OT1名、視覚障害訓練2名という充実した体制でした。
 「今でも珍しい視覚障害者の訓練担当者をどうして最初から2名も配置できたのですか」と私が所長に訪ねると「当時人たちは、視覚障害者への対応をすることが当たり前と考えていたようですよ」との答えに、私の方がびっくりしてしまいました。しかも、初代の担当者は石黒さんと山本さんという方で、視覚障害リハや歩行訓練士の歴史には、まだまだ疎い私でも名前を聞いたことのある方たちでした。
 このようにどの障害にも対応できる総合的な施設として運営されてきたセンターでしたが、平成12(2000)年から導入された介護保険制度との関係で、脳血管障害や高齢に伴う障害については、介護保険での扱いとなり、センター機能の縮小が図られ、視覚障害訓練を担当していた2名と、ST1名・PT2名が区役所の高齢・障害部門に異動となり、視覚障害者訓練の担当者は1名で週4日勤務の非常勤職員となったとのことです。
 現在のセンターは、「児童発達支援」、「地域活動支援センター事業」、「地域自立生活支援センター」の機能を持ち、荒川区に住んでいる生まれてから高齢段階までの障害のある方たちの総合的な相談と支援、様々な講座などの事業を展開しています。

2 センターでの視覚障害に対するサービス内容

視覚訓練相談員の加藤さんは、国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科を卒業し、他の施設で視覚リハに携わった後2年前に現在の仕事につかれたとのことです。
 このセンターで訓練を継続的に受ける事ができるのは、身体障害者手帳を持っている人ですが、相談に関しては、そのような制限はなく、区民であれば手帳を持っていなくとも利用する事ができます。
 訓練の内容は、歩行・コミュニケーション・日常生活動作という視覚障害リハビリテーションの基本的なもので、センターに来ての通所の形と、訪問しての訓練があります。
 この事業の実施に関しては、地域活動支援という区独自の予算でおこなっているとのことで、自立支援法に基づく自立支援給付によるものはないとのことでした。
 現在10名ほどの方が継続的に訓練を受けているとのことですが、高齢の方が多いせいか歩行訓練を主にしたものはあまりなく、一番多い希望は、音声パソコンの訓練と携帯電話等の使い方の指導とのことでした。
 また、高齢視覚障害者の居場所作りもかねて、月2回グループワークをおこなっており、簡単な手芸等をおこないながら、視覚障害者相互の交流の場を提供しているそうです。
 地域自立生活支援センター事業の一環として、ピアカウンセリング事業もおこなっているとのことでした。
 「高齢視覚障害者が多いので、就労支援というような所にはなかなか行かないけれど、やはり日々のQOLの向上が目標」と加藤さんはおっしゃっていました。
 荒川区民は約20万人、視覚障害で手帳を所持している方は約550人とのことでした。
 今後、この事業をどのように充実させて行きたいですかという質問に対して「もっと多くの人に事業のことを知ってもらい利用者を増やすこと、特に眼科医との連携を図れるようにしたい」と加藤さんも所長も言っておられました。

3 私の感想

2時間あまりの充実した話し合いの中で、私が考えたことの一つは、このセンターの場合、社会福祉士でもある所長が、とても良く視覚障害リハビリテーションサービスの重要性と役割を理解していることの大きさでした。視覚障害リハビリテーションと言っても当然のこと、その専門家一人でできるわけではなく、上司の理解と他の専門家の理解がなければできません。今まで見せていただいた二つの施設でも、そのことを強く感じましたが、たんぽぽセンターで加藤さんが就職2年目と言うこともあり、上司の理解と支えの大切さについて、強く感じたのだと思います。
 次に、たんぽぽセンターでの体験だけでなく、3カ所の施設を見て来て考えたことですが、それぞれ地道にその地域の実情に即したやり方で、視覚障害者に対するリハサービスを提供してきたのですが、これらの優れた実践は、何で、視覚リハ業界の中であまり知られていないのだろうかと言うことが、強く頭に浮かびました。
 荒川区の実践は40年にも及ぼうとしていますし、「総合リハ施設であれば視覚リハサービスがあるのが当たり前」と言う考え方が、40年ほど前にはあったのに、どうしてここだけの特殊なもので終わってしまったのか。
 武蔵野市の場合、眼科医が視覚障害リハサービスの必要性を市議会に陳情して、市の中でニーズ調査をおこなって、その結果サービス提供システムができたと言う、すばらしい実践がありますが、そこだけのことに終わってしまっています。
 先進的なすばらしい実践を学ぶだけでなくて、システム作りの成功例がなぜ上手く広がって行かないのかについて、もっと研究して見たくなりました。

 最後になりましたが、貴重な時間を割いていただき、貴重な情報を提供していただいた石垣所長と加藤さん、本当にありがとうございました。

荒川区心身障害者福祉センターの情報をより詳しく知りたい方は、こちらへ
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/shisetsu/shogaishamuke/tanpopo.html