高知女子大に在籍しながら、高知で視覚リハシステムの構築活動に関わっていたころの私は、本当に少しの相談支援をおこなっただけで、後は、「視覚障害者生活訓練指導員」の方達のしている事を見たり、その方達が働きやすいシステム作りをしたりしていた。だから臨床現場にいたとはとても言えないが、そのわずかな現場での経験が、「視覚リハをもっと普及させたい」と言う私の情熱や考え方の原点になっていた。
東京に戻って、私は、その現場を失ってしまって、自分の原点を亡くしたような気分になっていた。
「東京でも何かやりたいな」と思ってはみても、東京には、すでに立派な活動をしている沢山の施設があり個人がいるし、その上私は長年高知にいたので東京の事情は何も知らないしで、「何もできないな」と思っていた。
「そうだ、東京のことをまず学んでみよう」、第21回視覚リハ研究発表大会が終わって、少し体力が回復してきたからだろうか、そんな事を思い立った。
思い立ったら動くと言う鉄則に従って、前々から名前は聞いていた「世田谷区立総合福祉センター」で視覚障害者のリハビリに携わっておられる木村さんにお電話をしたところ、快く訪問を承知してくださったので、7月17日の午後、訪問させていただき、いろいろとお話を伺って来た。
1 いつからどんなサービスを提供しているのか
総合福祉センターは、小田急線梅ヶ丘と豪徳寺のどちらからでも歩いて行ける緑の多い静かな住宅地にあった。公益財団法人世田谷区保健センターが指定管理者として運営にあたっている。この施設ができたのは平成元年、建物は少々古い。
「視覚障害者の相談・支援部門が併設されたのはいつからですか」と言う質問に対して、「設立当初から」と言う答えが返って来た。「すごく珍しいですね」と言うと、当初の計画では、視覚障害者相談支援の部門はなかったのが、地元の視覚障害者団体などの要求で入ったとのことであった。
この部門を現在担当している木村さんは、平成17年からの担当で、職名は「視覚障害指導担当」、非常勤職員として、週4日施設内での相談・支援をおこなうと共に、訪問による相談・指導・訓練も積極的におこなっている。
サービス内容は、いただいたパンフレットによると、
眼科医による医療相談(医療相談・手帳相談・補装具相談)、要予約1ヶ月に2回
視覚障害指導員による(各種相談・情報提供・仲間づくり)
自立訓練(歩行・コミュニケーション訓練・日常生活訓練)
となっている。(PDFファイル参照)
平成23年度の事業概要によると、初回評価が14件、相談・評価・指導が438件、合計452件であった。
18歳未満の児童の相談も受けるのであるが、世田谷区には都立久我山青光学園視覚障害部門(旧久我山盲学校)があり、視覚障害児の相談は、ほとんど直接そちらの方に行くとのことであった。
2 視覚リハに最適なサービスシステム
上記のサービスを受けることのできる人たちの範囲を伺うと、世田谷区に住民票がある「見えない見えにくいことで困っている方」と言う条件があるだけで、年齢の制限や身体障害者手帳の有無にかかわらずサービスを受けることができるとのことであった。
利用者には、高齢者が多く、「自立訓練(自立支援法に基づくサービス)」を受ける方の数は年に2-3件と言うことであった。
視覚リハを効果的におこなうためには、「見えない見えにくい状態」になって、なるべく早期のアプローチが重要だし、当事者がやる気になった時が、サービスの開始時であると言われているが、自治体でおこなわれているこの種のサービスには、手帳の所持が前提とか、65歳以上はサービスの対象外とか言う制限が設けられている。
視力が1.0あっても、視野の欠損とかその他の理由で見えにくくなった人は、それで本当に困っているのだから、視覚リハの対象なのは当然だし、高齢で中途視覚障害になった方も、日常生活をできるだけ暮らしやすくしたいと思っている(QOLの向上)のだから、利用者に様々な制限を設けないこのやり方が、視覚リハにとって最適である。
ただし、このやり方には、いわゆる補助金は出ない、区独自の考え方でしているのだ。
すごく先進的で、利用者にとって最適のこの制度が、「財政危機」の名の下に消えてしまわないようにと、私は祈るような気持ちになった。
3 私の感想
ちょっと興味を持って調べて見たら、世田谷区の人口は、この7月現在で約84万5千人、平成23年4月1日現在の身体障害者手帳所持者19.130人、その内視覚障害者が1461名であった。
高知県の人口は現在約76万人で、確か視覚障害で手帳を持っている人は、3.300人程度だったはずだ。あれ、世田谷区は視覚障害で手帳所持者の数が高知と比べて少ないと思った。これなぜなんだろう。
もう一つ、知りたいけれどなかなか分からないこと、それは「なぜ世田谷区では視覚障害リハサービスが、総合福祉センターの中に位置づけられたのか」と言うこと。これ全国的に見ると、まだまだ希有なことだ。「どうしてできたのか」そのことが分かれば、他の所にもこれから「つくる」ことができるはずだからである。いろいろな要素が重なってできたことだから、そんなに簡単には分からないけれど、その要素を解明して見たいものだ。
木村さんとは、2時間以上お話しさせていただき、いろいろと学ばせていただいた。本当にありがとうございました。
世田谷区立総合福祉センターホームページアドレス
http://www.setagaya-sofuku.net/