私とフリークライミング

 11月21日(金)から24日(月)までの4日間は、盛りだくさんの企画で、とても充実していて、しかも、とても忙しかった。この4日間に3つの大きなイベントがあって、どれもこれも、私のブログで紹介したい事ばかりである。
 たぶん、日にち順に紹介して行くのが正しいやり方なのだと思うが、今の私にとって、もっとも印象的だった「フリークライミングの体験」から、どうしても書きたくなった。
 11月5日の私のブログで紹介したように、私は、この1ヶ月近く「視覚障害者向けフリークライミング体験スクール実施」を事務局として、一生懸命準備して来た、
 なぜ、このスクール実施に熱心だったかと言うと、それは、その普及に努めておられるモンキーマジックの小林さんの話が、とても面白く、新しい事に挑戦していく課程が、私がダイビングにのめり込んで行った頃の同じにおいと情熱を感じたからである。
 けれども、「私がフリークライミングを体験する」事は絶対にしないと決めていた。

春野運動公園の高さ10メートルの人工ウオール
(写真は、春野運動公園にある高さ10メートルの人工壁で準備をしている所)

 私には、足の骨の発育不全と言う原因不明の障害がある。小さい時から医者には、「激しい運動はだめ」と言われていたし、もし骨など折ったら、回復するのに人の何倍もかかると思い込んでいた。
 スクーバーダイビングは、無重力の世界を楽しむものだし、ハードな運動だけれど、骨に負担はかからない。だから私にはとても適した運動で、26年も続けて来られたのだと思っていた。

 でもフリークライミングは、重力に逆らうわけだし、命綱をつけて絶対安全だと言うことは理解していたが、ちょっとした衝撃で、脆い私の骨は折れるかもしれないし、もし、私が事故でも起こしたら、せっかく四国で初の試みも台無しになってしまうし。
 とにかく、「やるべきではない」と思っていた。

 ところが、23日1日、小林さんと仲間の人たちが、スクールの準備をしながら、楽しそうに人工壁を上ったりおりたりしているのを見ている内に、私もやってみたくなってきた。

 24日(月)スクール当日は、なんと雨、ひどく寒い日だったが、人工壁の上に、前日小林さんたちが苦労をして設置したビニールシートのおかげで、中止せずにスクールをすることになった。
 朝早くから、スタッフの皆さんで準備をして、それを見ていた私に、小林さんたちが「登って見ませんか」と声をかけてくださった。
 絶対に断るつもりだったのだが「せっかく声をかけてくれたのにつきあわないと悪いよね」と思って(本音ではとてもやりたかったのだと思う)、靴を履き替え、ベルトを着けて体験が始まった。

登り始める前に小林さんから説明を受けているところ 登ろうとがんばるが 壁にへばりついてかっこわるい私
やっと援助の人の手が届かない高さまで登れた   もうだめとおろしてもらっている所
(5枚の写真は、登り始めてからローブでおろしてもらうまで)

 登りやすい一番下のホールドに足をかけて、手の届くところの手がかりをつかんで、何とか登ろうとするのだが、足にちっとも力が入らない。と言うよりも、無意識に足をかばっているらしく、力を入れようとしないのだ。何とか、おしりを押してくれていた小林さんたちの手を離れて、少し登った所で、ひどく頭が痛くなって来た。
 「もう無理です」と言って、ロープでゆっくりと下ろしてもらった。
 地上に足がついても、へなへなとして、立てないし、とにかく「グワン、グワン」と言う感じの頭痛がして、ちょっぴり気分も悪いし。

 「やっぱりこれ、私には向かないな」などと思って、もう2度とやらないつもりでいた。
 ところがである、次々にみんなが壁に挑戦して行くのをみていると、またまたやってみたくなり始めて、「うずうず」してきて、だんだんそれが押さえられなくなって来た。

 午後3時を過ぎて、スクールも終わりに近づいた頃、「もう一度やりたい」と申し出てしまった。

性懲りもなく2te  おしりを押してもらいながら少しでも高くをめざす 1回目より少し手と足が動くようになった 
(3枚の写真は、2回目の記録です)

 「もうちょっと上の、そのホールドまでがんばって」と励まされて、今度は、足にも前より少し力が入るようになって、そして、目標のホールドに飛びつくことは出来たが、そこで終わり。
 またまた地上に降りてから、激しい頭痛に悩まされた。

 後で小林さんに「どうしてこんなに頭痛がひどくなるのか」と訪ねると、「一生懸命力を入れようとして、呼吸を止めているので、酸欠になったのでは」と答えてくれた。
 
 手が壁から離れて、ロープにぶら下がる感覚は、最初とても怖かったけれど、何となく海の中の無重力の状態ににていて、とにかくすてきな体験だった。

 「自分の障害は足の骨だから、クライミングなんて絶対に無理」と考えていた私、でも、実際は違っていた。「障害がこうだから、私にはこれは出来ない」と言う考え方はやめなければいけないのだと、私は自分にも、学生たちにも言って来たのだが、いつの間にか、「これが限界」の罠にはまっていたようだ。クライミングの体験が、私をその呪縛から解き放ってくれたようだ。この感覚、私がスクーバーを始めた頃に良く味わった感覚、とてもすてきな感覚だ。

 今回の体験は、私の世界をまた広げてくれた。これで終わらせたくないので、高知でも継続的にスクールが出来るように、私なりにがんばってみたいと思う。

 61歳になって、こんな新鮮な感覚と興奮を味わえて、私は本当に幸せだ。小林さん、そしてスタッフの皆さん、応援してくれた方たち、本当にありがとうございます。