今日テレビで放送された番組に怒りを感じて

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  私は、時間があるときには毎日曜日の午後6時半からTBS系で放送されている「夢の扉」という番組を見ている。今日までは、様々な形で社会改良を志す方たちを取材した優良番組だと思っていた。
  しかし、今日の「夢の扉-40代以上は要注意!白内障驚き手術!」の脚本というか、筋立てがあまりにも、見ている人に間違った印象を与えるように構成されているのにはらわたの煮えくりかえるような思いがして、どうしても、ここに書くことにした。

  番組では、東京の三井記念病院の赤星先生が行っているすばらしい白内障手術をいくつかの事例をあげて紹介していた。

  まず、最初におかしいなと思ったのは、ナレーターの白内障という病気と、手術についての説明である。「白内障は突然失明する病気」というように説明していたと思うが、白内障は、突然失明したりしないし、病状が相当に進んでも、白内障だけで完全に見えなくなる(失明する)ことはない。

  次におかしいと思ったのは、「赤星先生の手術法が出てくるまではとても大変な手術であった」と強調していることである。今、合併症を伴わない白内障の手術は、時間もかからず、日帰りで行っているところも多い。
  誤解されるといけないので書き添えておきたいが、赤星先生のなさっている手術法が画期的なものだということを否定しているのではない。

  事例として出てきた、50歳代の男性の方が、「見えた」と感激していたが、画面とナレーションだけで判断すると、合併症を伴わない白内障であるし、そんなに特別な事例ではなくて、一定以上の水準の眼科であれば、当たり前にできることである。

  もう一度書くが、私は医療には素人であるし、赤星先生の手術法にクレームをつけているのではない。そのすばらしさを強調しようとするあまりに、「白内障が非常に怖い病気で、特別なところでしか手術できない」という印象を、この番組の作り方が与えていることに抗議しているのである。

  もう一つ、どうにも我慢できない部分があった。それは、糖尿病からの白内障で、ほとんど見えていないらしい71歳の男性の手術前の取り上げられ方である。

  見えなくなって、すっかり気力を失ってしまって、寝たままインタビューに答えている男性の姿や、「見えないので何を食べているのか分からない」といったナレーションを背景に、ご飯を食べている場面が映し出されているが、私は、見ていて「見えないとこんなになる。」「何もできない」ということばかりが強調されているのが本当に悲しくなった。

  確かに人生半ばで「見えない・見えづらくなる」と一時は、1人で動けなくなるし、ひどく落ち込むものである。けれども、きちんとした視覚障害リハビリテーションを受けると、気力も回復するし、日常生活も改善される。視覚障害リハビリテーションの効果を知ってもらい、「見えない・見えづらい」状態でもより良く生きて行けるということを啓発するのが、私の仕事である、そして、「視覚障害者は、何もできない人」という一般のイメージを払拭するのがどんなに難しいことかを身にしみて知っているのである。

  そんな中、この番組では、手術によって回復するすばらしさを強調したいために、いわゆる視覚障害の状態をひどく惨めに見せていることに、猛烈に腹が立っているのである。

  テレビに出ていた、この71歳の方は、幸いにも手術で相当見えるようになって、表情もとても明るくなって、私は、とても救われたが、残念ながら、現在の医療では「見えない・見えづらい」状態を改善できない人たちも沢山いるのだから、「見えない。見えづらい」ことを、絶望的なこと、解決しようのないことだと言うようなイメージをあおるような番組のつくりかたは、絶対にして欲しくない。

  他にも、いいたいことは沢山あるが、とにかく、「白内障の治療は、すごく大変で、特別な病院に行かなければだめなのだ」というような印象を見ている人に与えたことと、「見えなくなったら人生終わり」というひどい誤解を見ている人たちに与えるような、そんないい加減な番組づくりに、視覚障害リハビリテーションの正しい普及に努力しているものとして、抗議しておきたいと思う。