聞いてびっくり「療養病棟の医療区分」の仕組み

母に会いに行く度にいつも頭をよぎるのは、母はいつまでこの介護療養病棟にいられるだろうかということである。私が、なぜそのような不安を抱くかというと、国が打ち出している、療養型の病床を、38万床から15万床に減らすという方針をうけて、高知県でも、現在8000床ある療養型のベッド数を、2000〜3000床に減らすという方針が出ていることを知っているからである。
 
そんな不安を抱いている中、先週ある会議で医療制度改革(私は改悪だと思っているが)にとても詳しいドクターとお話しするチャンスがあって、その話を聞き、私の不安は、憤りに近いものに変わっていった。
 
 療養型病床には、医療区分というのがあって、患者さんの状態がどの区分に当てはまるかによって、病院が受け取れる診療報酬が格付けされている。医療区分は、3段階に別れていて、3が、一番医療度が高く、1が一番低いということであった。

 母は、どの区分に入るのかなと思い、ドクターに母の現状(骨粗鬆症で、骨が紙のように薄くおれやすいこと、鼻腔栄養で排尿のためバルーンカテーテルを装着していること、最近呼吸状態が悪いこと)などを話したところ、「それでは医療区分が1ですね」と言われた。「え、どうして、担当のドクターも、特に呼吸状態が悪くなってからは、しょっちゅう様子を見に来てくれるし、骨がとてももろくて折れやすいので、入浴にも、リハビリにも細心の注意が必要で、褥瘡ができたり、痛みが出ないように姿勢の保持(ポジショニング)に、看護師さんや介護のスタッフがとても気を使ってくれて、とにかくすごく手がかかっているのに」、と私。
 
 「医療区分では、母の今の状態では、医療の必要度が高いことにはならない」とドクター。
 「医療区分の3は、いわゆるICUに入っている人ぐらい医療度の高い人で、療養型に入院している人は、ほとんど当てはまらない」とドクター

 さらにドクター曰く「現在介護療養病棟に入院している方の約半数が、医療区分1で、医療区分1では、低い診療報酬しか受け取れないので、経営が成り立たない」とのことであった。

 厚生労働省の方針では、介護療養病床群は、平成24(2012)年で廃止することになっている。
 その廃止がスムーズにできるように、まずこの医療区分というシステムを使って、介護療養病棟が経営的に成り立たなくして、そして廃止の方向にもっていくということなのだと、私は思った。

 この医療区分も介護保険と同様に、成功報酬のシステムはとられていない。
 どういうことかというと、病棟のスタッフが治療やリハビリに手を尽くして、医療区分3の患者さんを医療区分1にしたからといって、受け取る診療報酬が少なくなるだけで、何のメリットもないということである。つまり、患者さんのQOLを向上させる努力と熱意は、経営面からいえば介護療養病棟の足を引っ張ることになるという、ひどいシステムである。

 社会的入院の温床であり、医療が福祉の肩代わりをしている制度であるから、医療療養型病床群を23万床減らして、高齢者の方たちが、できるだけ在宅で、一般生活に近い暮らしができるようにするというのが、厚生労働省の言い分である。そして、23万人の人たちのケアは、老人保健施設・ケアハウス、在宅で行うと言う。

 でも、今、鼻腔栄養でバルーンカテーテルのケアが必要で、呼吸状態が不安定、利尿剤と水分補給の微妙なバランスの元で、医師の管理をうけながら、かろうじて安定を保っている母を受け入れられ所が、医療機関以外にどこにあるというのか?
 
 このまま政府の方針がおし進めば、沢山の高齢者とその家族が医療難民・介護難民になってしまうのは必至である。
 今、医療療養型病床群に入院している沢山の高齢者は、日本の戦後復興と発展に寄与してがんばって来た方たちである。母をはじめ、その方たちの人生の最後を惨めなものにしないために、私たちは、もっと学び・怒り、声を上げて行かなければならないと思う。

 私は、介護療養病棟のことをはじめ、医療制度について、まだまだ勉強を始めたばかりである。間違った点などあったら、また指摘していただければと思う。