この記事は、2005年11月3日(木)に点字毎日に登載されたもの
(ホーチミン市内にあるグエン ティン チユ盲学校での盲学生の歩行風景)
ベトナムの福祉事情探訪記(3)
8月26日、ベトナム滞在の最終日、最後の訪問場所は、ホーチミン市立グエン・ディン・チェウ盲学校で、視覚障害リハビリテーションが研究テーマの私としては、とても興味深い訪問先であった。盲学校はまだ夏休み中、がらんとした校舎で、校長先生と昨年まで筑波の特設教員養成部に留学して帰国し、今はこの盲学校で教えている女性の先生が私たちを迎えてくれた。
校長先生とのやりとりで、生徒全体の2/3が全盲として認識されている(ロービジョンの概念が確立されていないらしい)こと、視覚障害になる原因では、トラコーマやはしかなどの感染症がまだ多く、単独の視覚障害児がほとんどであること、生徒数をはっきり聞かなかったのであるが、150人近くいるようだということを聞き、生徒数が二桁台に減り、重複障害児と成人の中途視覚障害者が多く通っている日本の盲学校と比較し、私は様々考えさせられてしまった。「能力のある生徒は、大学に進ませる」とのことで、20人ほどが大学や短大に進学しているとのことであった。
学校内を見学させていただこうと外に出たとき、白杖をきちんと操作して門を入ってくる生徒を見かけた。実はベトナムではまだ白杖が、視覚障害者を表すシンボルケーンとして都会でも一般に充分認知されていないという事前の知識があったので、その点と歩行訓練は誰がどのようにするのかということを校長に伺って見た。「この盲学校の周りでは、白杖はシンボルとして認知されているから、生徒は安心して歩いている」「白杖などについての啓発もこの学校の大切な役割」という答えが返って来た。また、「盲学校では午前に授業、午後からは歩行を中心に日常生活訓練に力を入れている」とのことで、歩行指導に関しては、オランダからインストラクターを招き、教員が指導を受け、生徒を指導しているとのことであった。
薄暗くだだっ広い寄宿舎の食堂で、4〜5人の学生が外からとったらしい夕食の弁当を食べていた。「マッサージセンターで働いたりしながら大学や専門学校に寄宿舎から通っている学生です」と校長が説明してくださった。盲学校を卒業した後も寄宿舎を利用させる。これも「学生の必要に対応する」制度にとらわれない考え方なのであろう。
「コンクリート打ちっ放しで夏休みだからかほとんど明かりをつけていないほの暗い校舎、最新鋭の高速点字プリンター、1部屋に8人の寄宿舎等々」と私が少々混乱した印象を語ったところ、森澤さんに「この学校は天国みたいなものですよ、郊外のお寺が経営している私立の盲学校などひどく苦労をしています」といわれた。一説によると20%にも達していないという視覚障害児の就学率、せっかく就学しても学校を終えると仕事がなく、家に戻らざるを得ない現実。一方20人近くが大学や専門学校に通っているグエン・ディン・チェウ盲学校の実践。教育として力が注がれている日常生活訓練。ベトナムの視覚障害者事情は複雑で興味深く、私は、もっともっと知りたくなった。