今日も午前中に時間をつくることができたので、ゼリーに飽きた母に、言語療法士の方のアドバイスに従って、卵豆腐や絹ごし豆腐をもって、いそいそと病院に出かけました。そう、私の気分は「いそいそ」、なぜなら、母が鼻腔栄養になってから4ヶ月あまり、食べ物を何ももって行けなかったので、食べ物をもって行けるようになったというのは、大進歩だからです。
午前10時を少しまわった頃、リハの担当者がリクライニング式の車いす(左端の写真)をもってきて「リハ室に行きましょう」と誘ってくれました。母は、何となく眠そうでしたが、「行く」といったので、介護の方と3人がかりで、ベットから慎重に車いすに移し(左から2・3番目の写真)、それから2階のリハ室に行きました。
リハ室は、賑やかで5人ほどの方たちが、立位の訓練や、言葉の訓練をしていました。母と私は、定位置になっている窓の下に行き、快晴の真っ青な秋の空を眺めました。「きれいだね、本当に雲一つないね」と話しかけると、母はこっくり。
そこに言語療法士の方が来て、いよいよ嚥下のトレーニングが始まりました。「卵豆腐と絹ごしとどっちがいい」と聞くと「卵豆腐」と母が言うので、ふたを開けて付いていたたれをかけると、卵豆腐の何とも良いにおいが漂って来ました。言語療法士さんは「良いにおい、今日の夜は、卵豆腐を食べたくなった」などと話しながら、ゆっくりと母に卵豆腐を食べさせてくれました。「おいしい」と聞くと「おいしい」と、いい表情で答えてくれました。良かった、本当に良かったなと、私は、一人で感激してしまいました。
15分ほどかけて、母は卵豆腐を半分ぐらい食べてくれました。
リハ室で母と二人になったとき、「家のぬかみそのぬかが減ってきてしまって困っているのよ、新しいぬかはどうやって足したら良いんだっけ」と私が唐突な質問をしたら、今まで何となくとろっとして、反応がいまいちだった母が、はっきりと「フライパンでいったぬかを足せば良いのよ」と答えてくれました。
それからひとしきりぬかみそ談義。母は、お嫁に来た頃から40年以上、ぬかみそを大切にしていました。その記憶がよみがえったのかもしれません。それまで、あまり反応を示さなかった母が、この時は多弁でした。
40分ほど車いすに座って、病室に戻って、また二人がかりでベッドに移してもらい、リハの方に姿勢を直していただいて(右端の写真)、所要時間約1時間、ゆったりと、穏やかに時間が流れて行きました。
回復期の若い方たちのリハビリだけがリハビリだと思っている人たちには、「こんなのがリハビリ」という風に見られるのかもしれません。母も自分から積極的に「車いすに座りたい」という意欲を見せるわけではありません。でも、車いすに座るようになって、母の表情は確かにしっかりして来ましたし、回りにも注意を払うようになりました。こんなわずかな変化を大切にするのが、高齢の方たちのためのリハビリでしょう。良い処遇をしてくれる介護療養病棟では、毎日このような営みが行われています。
この大切な営みを、介護療養病棟をなくしてしまうことで奪わないで欲しいと、切に思う私です。