足立区障がい者福祉センターあしすとを訪問記

 東京の視覚障害リハビリサービスに携わっている方たちを訪問して、その現状から学び、高知という現場を離れて東京に戻って来た私に、今何ができるのか考えようと言う計画、7月と8月に順調に施設訪問をさせていただいていたのだが、学会発表の準備や、視覚リハ協会の理事会などが入っていた9月は、訪問をお休みせざるを得なかった。
 二つの学会発表と一つの講演を終えて、ようやく一段落ついた10月12日(金)に、訪問を再開することができた。
 今回の訪問先は、「足立区障がい福祉センターあしすと」、お話を聞かせてくださったのは、社会リハビリテーション室相談担当の荒井さんと、スタッフの皆さん、そして週に1度、視覚障害リハ専門の講師として参加している加藤さんであった。
足立区障がい者福祉センターあしすとホームページは以下の通り 
http://www.city.adachi.tokyo.jp/shogai-c/shisetsu/fukushi/asistsougou.html

1 社会リハビリテーション室視覚コースとは

センター社会リハビリテーション室は、障害者自立支援法に基づく自立訓練(機能訓練)事業を通所の形でおこなっていて、定員は25名である。視覚コースは、この事業の一環として位置づけられ、利用者は、自立支援法に基づく認定調査を受けて、契約を結んでサービスを利用する形をとっている。利用できる期間は1年半で、繰り返しの利用は認められていない。

 視覚コースは、毎週金曜日におこなわれている。通所してくる方のために、専用の送迎バスがあり、利用者は、付き添いやガイドヘルパーを頼むなどの心配をしなくても、毎週センターに通ってくることができる。
 視覚コースに関わるスタッフは、社会リハビリテーション室の相談担当者、看護師、PT、OTなどの他、視覚障害リハの専門家として、国リハを卒業した訓練指導員が、講師として歩行訓練などを中心に指導している。

 現在視覚コースを利用しているのは6人とのことであったが、私が訪問した日は、5人の方が出席していた。
 午前の活動は、10時半から12時までの1時間半、1時間半の昼食休憩を挟んで、午後の活動は、1時半から3時半までとなっている。
 私が訪問した時は、午前10時を過ぎた頃、利用者が集まりはじめ、まず看護師さんが血圧を測り、体調をチェックして行く。その後、個々の方たちのその日の目標に従って、手作業や手芸などをするグループ、歩行の基礎をおこなうグルーブなどに別れて、思い思いに課題に取り組んでおられた。活動をおこなっている隣の部屋には、身体的なリハビリテーションに使える機器もそろっていて、PTやOTの方もいるので、利用者から希望があれば、それらを使っての体力作りなどもプログラムに取り入れることができるとのことであった。
 私は、午前中の活動を見せていただいただけだったが、活動は午後も続き、お昼の給食を食べてから、2時間、午前中とは別の課題に取り組むとのことであった。興味深かったのは、午後のプログラムの中に「栄養指導」と「体調管理」の話し合いの時間があると言うこと。利用者には、糖尿病網膜症の方もおられるので「これは良いプログラムだな」と思った。
 社会リハビリテーション室の全体の動きは、下記パンフレットを見ると良く分かる。
社会リハビリ室バンフ.pdf

 2 グループでの活動のすばらしさ

 スタッフの皆さんの計らいで、午前中利用者の方たちの活動している場所で、私も自己紹介をさせていただき、グループの活動の輪の中に加わることができたのだが、当事者の皆さんは、作業をしながら、楽しそうにおしゃべりをしていた。ある当事者が「音声解説付きの映画を今日の夜のテレビでやる」という情報を披露し、他の方が「区でしている視覚障害者向けの料理教室に一緒に参加しよう」とみんなに声をかけていた。
 見え方も、見えない見えにくい状態になってからの年数も、一人一人ずいぶん違うようだが、「ここは自分たちが安心していられる場所」という雰囲気の中、時が流れているように見えた。
 「これこそ、視覚障害当事者が集まっている事の利点」だとつくづく感じさせられた。
 

3 まとめと感想

この足立区の取り組みは、活動プログラムを作成するにあたって、視覚障害に配慮し、視覚リハの専門家の助言を取り入れているが、社会リハビリテーション室の事業として視覚リハ専門家以外の方たちが広く関わっているので、その特徴が出て、今まで見て来た「視覚リハ専門家が全面に立つ」活動とはずいぶん違っているように思えた。

 歩行や音声パソコン操作、拡大読書器の使い方などといった技術を学ぶ場というより、1週間に1度通って来て、生活リズムを整えたり、社会参加の基礎をつくったり、当事者同士の交流の場となるという、役割を果たしているのだと思った。特に当事者同士の相互交流の効果というのが大きいなと感じた。
 ただ、歩行訓練技術や日常生活訓練、コミュニケーション技術を、もっと深く習得するためには、マンツーマンでの指導が必要だろうし、実際より高い技術の習得を望む方には、他の専門施設を紹介しているとのことであった。
 現在高齢化し、重複化している視覚障害の方たちの最初の社会参加のきっかけを作り、訓練に関する動機付けをするステップとしては、この試みはすばらしいと思って見せていただいた。

 活動を見せていただきながら、考えてしまったのは、ここに通所してくる体力も気力も、あるいは環境も整っていない方たちのこと。足立区のこの通所の試みに、世田谷区や武蔵野市で見て来たような家庭訪問で、マンツーマンでおこなう視覚障害者リハ事業がセットになってできたら、どんなに良いだろうと、またそれが絶対に必要だと思った。

 最後になりましたが、快く活動を見学させていただいた、スタッフの皆様、当事者の皆様に感謝いたします